100万回愛した猫
私には一匹の猫がいました
立派なトラ猫は私にとって自慢でした
だからいつも籠にいれて戦争につれていきました
猫は私を好きではないとわかっていましたが私は猫がとてもとても好きでした
あるとき私は船乗りでした
私は猫と離れたくなくて世界中の海と港に猫を連れていきました
ほんとは猫が海なんか大嫌いだとしっていました
あるとき私はサーカスの手品つかいでした…
あるとき私はどろぼうでした…
あるとき私はひとりぼっちのおばあさんでした…
あるとき私は小さな女の子でした…
100万回も猫は私より早く死んでしまいました
私はいつも死んでしまった猫を抱いて泣きました
けれど猫は1回も泣きませんでした
あるとき私は一匹の白猫でした
私は初めて猫と離れて暮らしました
そして、いままで猫が死んでしまったのは私のせいだったのだと初めてわかりました
猫はかわらず立派なトラ猫でした
どんなメス猫も猫のお嫁さんになりたがりました
猫はいろんなメス猫からプレゼントをもらっていました
私はそれを遠くからずっと見ていました
猫がとても幸せそうだったからです
ある日、猫が私に声をかけてきました
「俺は100万回も死んだんだぜ」と言いました
私はそんなことはわかっていたので
「そう」
と言ったきりでした
猫はすこし腹を立てていました
私は猫が大好きだったのでそれでいいと思いました
猫の幸せの邪魔をしたくなかったのです
それなのに猫は次の日も次の日も私のところへやってきました
「君はまだ1回も生きおわってないんだろ」
私は猫に自分がいままで嫌っていた人だと知られたくなくて
「そう」
と、はぐらかしました
「俺サーカスの猫だったこともあるんだぜ」
そんなことはじめから知っていました
ある日、猫は
「俺は100万回も……」
といいかけて
「そばにいてもいいかい?」
とたずねてきました
私は驚いて目を丸くしました
私なんて猫のそばにいてはいけないんだと思いました
でも毎日毎日話しているうちに私はいままでとは違った意味で猫を好きになっていたのです
だから
「ええ」
と答えました
猫は私のそばにいつまでもいました
私は100万回目でやっと愛されることが出来ました
やがて私はかわいい子猫をたくさんうみました
猫は私と子猫をとても大切にしてくれました
子猫たちが大きくなってどこかへ行っても猫は私と生きてくれました
私は少しおばあさんになっていました
もう猫と一緒にいられる時間は少ないのだとわかっていました
ある日、私は猫の隣で死にました
はじめて猫より先に死ぬことができました
私は幸せでした
猫が死ぬところを見なくてすんだからです
私は微笑みながら逝きました
猫は私が死んで私の為に泣いてくれたでしょうか
私が100万回、猫の為に泣いたのと同じように
『猫はもうけっして生き返りませんでした』
おしまい