past 前編
「じゃあ、そんな感じで。」
「あぁ承知した。」
「作戦うまくいくといいな・・。」
「なんとかなるであろう。」
「うん・・・なんとかする。必ず。」
「そういえば、彼にはもう会ったか?」
「・・・彼?」
アームストロングに連れられ、病院の廊下を歩く。
そしてたどり着いた先の病室のネームプレートに『ジャン・ハボック』と書かれていた。
「・・・少尉・・」
「下半身不随になってしまってな。・・・・犯人はエドワード・エルリック。」
「・・・っ!!・・・やっぱり・・。」
「会うか?」
「・・・・・会うよ。」
「うむ。では、我輩はここで待っていよう。」
エドワードが大佐に追われた日々の中で少尉の姿を見ることはなかった。
少尉を下半身不随の体になった原因は人造人間との戦い。
予想は出来ていたことだったがショックは隠せなかった。
だが今、エドワードに必要なのは少しでもこの歪みに疑問を抱いてくれる人。
ハボックが理解してくれれば可能性はかなり上がる。
そして、アームストロングと考えた作戦にもハボックに参加してもらえたら心強いものとなる。
エドワードは周りを確認し、深呼吸して両手を合わせ変装を解く。
コンコン――
ガチャリとドアを開けて入ると、そこにはハボックが居た。
ベッドに横たわり寝ていた。
久しぶりに見るハボックのその顔は穏やかでよく知るものなのだが、何故だが自分の知ってるハボックではない気がした。
最後に見たハボックの顔は笑顔で、別れの時もギリギリに来て、車椅子なのにずいぶん速くて・・いつだって周りを明るくする。
だが、今目の前に居るハボックは寝ているにしては顔が白くて、
まるで生気を感じない・・・
「・・しょ・・・う尉?」
エドワードは恐る恐る手を伸ばす。
指先が頬に触れたのに気のせいか冷たい。
確かに呼吸はしてるのに、どこか遠くに居るかのようだった。
その時だった。
ハボックは目を開けエドワードの腕をすばやく掴み、
今までハボックが頭を預けていた枕にエドワードを押し付けた。
「・・・・っ・・!!!!」
「誰だ。」
「・・・・しょ・・い・・」
「・・・誰・・・っ!!!?」
エドワードが枕に押し付けられている顔をハボックが見えるようにずらした。
するとハボックは驚き目を見開きエドワードを縛り付けていた腕を放した。
「・・・・少尉、」
「エドワード・エルリック。」
自分の名前を呼んだことに変わりはないのに、
どうしてこうも感じるものが大きく違うのだろう。
ハボックの言う『エドワード・エルリック』という言葉に乗せられた思いは懐かしさでもなんでもなく、ただただ憎しみだった。
「・・・少尉、」
「何しに来た。」
「・・・話したくて。」
「話?ハハッ、出てけ。」
「・・聞いてくれ。お願いだ。」
「あぁ、そうか止めを刺しに来たってか?残念だが、俺はもう軍人じゃない。お前のお好みは軍人だろう?俺はもう一般人さ。まぁ殺したかったら殺してもいいけどな。」
「・・・・・少尉・・?」
目の前に居るのは誰だろう・・・
姿も声も確かにジャン・ハボックなのに、ジャン・ハボックではない。
エドワードはあまりにも自分の知っているハボックとは違うハボックに混乱した。
「そうなら、さっさと殺れよ。どうせ俺は逃げられね―――っ・・!!!!」
見知らぬ顔で、心にもない言葉を吐き出し続けるハボックをエドワードが思い切り殴った。
エドワードの目からは自然と涙が溢れ出ていた。
「少尉・・・本心を言えよ。
悔しいって、こんな所で立ち止まって悔しいって!!!!
少尉はめちゃくちゃ強いじゃんか。俺はいつも憧れてて・・・・っ・・・
少尉はそんなに弱くなんかないっ!!!!!少尉は立ち上がれるっ!!!!!!」
「・・・・・・・・・」
「大佐は少尉を置いていったりしない。
少尉の居場所をいつだって作って待ってるはずだっ!!!!!
大佐は誰よりも仲間思いだから、少尉のことを必ず戻るって信じてると思う。
少尉・・・・大佐のこと守りたいんだろ?一緒に戦いたいんだろ?ならこんなとこに居るなよ。勝手に立ち止まってんじゃねぇーよっっっ!!!!!!」
「・・・・・」
「少尉らしくねーーよっっっっ!!!!!」
エドワードは必死だった。
自信を完全に失い、自暴自棄になり心にもないことを言い続けるハボックがあまりに痛々しくて。
その言葉で自分をどんどん傷つけることが許せなくて。
だが、エドワードの怒鳴り声に圧倒されたハボックは信じられない言葉を紡ぐ。
「・・・・・・・・・・・・・たい・・しょう。」
「・・・・ぇ・・」
「悪かった。」
「・・・少尉・・?」
「お前の言う通りだ。俺どうかしてたな。
ったくお前等はすげー頑張ってるってのにな・・・・って、ん?あれ?」
「少尉、もしかして・・・!!!」
「なんだこれ、俺、退院したよな!?
お前等体戻すためにリゼンブールに行ったんじゃ?・・は?」
「少尉っっっ!!!!!!」
『大将』――
それは真の過去でハボックがエドワードを呼ぶときに使っていたもの。
喜びからエドワードはハボックに抱きついた。
当のハボックは記憶を取り戻し混乱していた。
とりあえずとタバコを吸ったハボックは驚くほど落ち着きを取り戻した。
そしてエドワードから事情を聞く。
錬金術なんてまるで理解出来ないハボックは何て迷惑なとイラつきつつ、エドワードのことを思った。先ほどまでの『エドワード・エルリック』に対する憎しみを思い出した。
「辛かったろ。」
「・・・・・平気だよ。」
「・・アルは?」
「リゼンブールで匿ってもらってる。」
「そうか。怪我してるな。」
「・・・大したことねぇし大丈夫。」
「無理すんな。」
「ありがとう少尉。」
「これからどうすんだ?」
「少佐と作戦があるんだ。協力してくんない?」
「決まってんだろ。」