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キスからはじまる恋

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 からかい半分で唇を阻もうとした途端、鈍い音が耳に入り込んできた。同時に軽く突き飛ばされ一瞬よろける。足元を定かにしてから唇を舐めてみる。微かにだが鉄の味がした。
 目の前の、キスを拒んだ気弱な同級生を見つめる。ジョセフは手の甲で口元を覆いつつ、未だ唐突なキスに驚いているのか『信じられない…』と言いたげに目を丸くしていた。

「お前…まさか…」

 隠している方の手首を掴む。

「やっ、やめろっ」
「もうしねぇよ」

 また口付けされるのだと勘違いしている様でジョセフは体をびくっと強張らせた。トムは言い聞かせながら彼を落ち着かせようと右手で彼の左腕をぽんぽんと優しく叩く。
 すると分かってもらえたのか手首に掛かっていた緊張が解け、自然と下がっていく。唇の端にはうっすらと朱色の液体が滲んでいた。





 生活態度が悪いという理由で常に教員から目をつけられていたトムは今日も無駄に口うるさい担任から『授業はサボるわ、気に入らない事があればすぐにケンカをおっぱじめるわ…今までは見逃してやっていたが今日という今日はそんな訳にはいかないぞ』と散々聞きあきた台詞と一緒に放課後、補習も兼ねて掃除を全て1人でやれと言われ、仕方なく教室で掃き掃除をしていたところ、同じクラスメイトのジョセフが忘れ物を取りにとやって来た。
 しかしトムが1人でやっているのを見て親切にも『僕も手伝うよ』と掃除用具入れから色々と道具を取り出し加わってくれた。
 ジョセフは特別目立つ様な存在ではなかったが成績優秀で周囲からは一目置かれていた。真面目で大人しいが、時折見せる屈託のない笑顔が印象的だった。
 トムはそんな彼に少しばかり興味があった。その為、ジョセフの手助けは別の意味でも好都合だった。
 彼が健気に箒を掃いている途中、可愛いなぁと軽い気持ちでキスを――そして今に至る。
 確かに格別仲が良いという訳でもない(どころか同じクラスメイトというだけで友達以前に何の接点もない)、しかも自分と同性である男から無理矢理キスを受ければ普通、引かれるか殴られるかのどっちかだ。自分も興味のない相手ならブッ飛ばしている筈だ。
 けれども、まさかここまで落ち込まれるとは…。顔も見たくないのかジョセフは自分から目線を右下へ逸らす。おまけに今にも零れ落ちそうになっている涙を必死に堪えようと眼が必要以上に潤っている。口も若干への字に曲がっている。

「ひどい…」

 半ば濡れた声で絞る様にぽつりと吐かれる。

「ひどいよ…せっかくのファーストキスだったのにっ」

 とうとう耐えきれなくなったらしくジョセフは俯いたまま肩を震わせ、泣きだした。

「おいおい、お前ホント女々しい奴だな。たかがキスだろ。泣く事ねぇじゃねぇか」
「っ…泣いてなんか…ないよっ」

 目元を両手で擦りながら弱々しく反論してくるジョセフに溜め息を吐いてトムは言葉を続けた。

「その前にお前、好きな奴なんかいねーだろうが」

 案の定、図星だったらしく、それでも分かりやすい反応を示しやすいジョセフなりに吃りつつ再び反論する。

「うっ…い、いつかは出来るよ…そのうち」
「だったらさぁ…」

 左右の手で頬を包み込む様にして押さえ、噛んでしまった部分の血を舐めとる。さっきまで体を強張らせていた筈のジョセフは唾液で傷口が滲みたのか顔を顰めはしたものの逃げようとはしなかった。

「俺がなってやるよ。お前のその初恋の相手に」












END
作品名:キスからはじまる恋 作家名:なずな