君の名は
この人の名前を、俺は知らない。
いや、知っている、といえば、知っている。
この人は『Ⅰ世(プリーモ)』。でもそれは呼び名であって、この人の本名ではない事ぐらいさすがの俺でもわかる。
俺は、この人の本名を知らない。
彼は、俺の事を『X世(デーチモ)』と呼ぶ。それが俺の名前じゃないって、きっと彼は知っている。
「デーチモ、一体さっきから何を考えている」
落ち着いた声音と額の一点に感じた温もりで、俺はふと我に帰った。正面、思ったより近い位置にある彼のオレンジの瞳を見返す。
「…プリーモ…」
「そうだ。どうした、何か悩みがあるなら聞くぞ?」
微笑むその姿は、兄のような、父親のような(俺にはちゃんと父さんいるけど)。だからこそ、彼と俺の間にある9代分の差に違和感を感じるのかもしれない。
「デーチモ?」
黙り込む俺を不思議に思っているのだろう、彼は俺を呼んだ。まさかあなたの事で悩んでいるとも言えず、彼の視線から逃げるように俺は俯く。
「……綱吉」
聞こえた単語に、反射的に顔が上がった。あげてから、都合のいい聞き間違いじゃないかと後悔した。だけど、それを払拭するような笑顔をその人は俺に向けていて、
「俺が知らないとでも思ったか?」
と得意そうに言うから。
彼は俺の名前を知っていた。
俺の名前を呼んでくれた。
その事実を嬉しいと思うと同時に、これくらいの事で喜ぶ自分が恥ずかしくて。どうしていいかわからずあたふたする俺を見て、彼はクッと息を詰めて笑う。
「お前の気を引けるのなら、名前で呼ぶのも悪くはないな…」
「あ……」
聞くなら、今しかないと思った。
「プリーモ…
あなたの、『名前』は…?」