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長谷川桐子
長谷川桐子
novelistID. 12267
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【1229サンプル】sink【静帝】

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「こんばんはー…」
 玄関の電気はついていなかったが、部屋の明かりは灯っていた。部屋数はそう多くなさそうな、単身者向けらしい間取り。その短い廊下の先で人の気配が動くのがわかり、帝人は背筋を伸ばして相手を待つ。
「こんばん、わ」
 そしてあらわれた人物にもう一度挨拶の言葉を発し……帝人はそのままぴしりと固まった。
「っ、へいわじま、しずお、さん」
 驚きのままに、思わず相手の名前がぽろりと口から零れる。
「あぁ?」
誰だてめぇ、と怪訝そうな低い声に問われて、帝人は慌ててぺこりと頭を下げた。
「あの、ご依頼を受けて参りました。『添い寝屋』のりゅ、竜ヶ峰帝人です!」
 暫しの沈黙。
 おそるおそる帝人が顔を上げて様子を窺うと、彼は怪訝そうな表情のまま「添い寝屋……そいねや…」とぶつぶつと呟いている。
「あの……」
「あぁ! アレか。新羅に頼んでたやつ」
 忘れてた、と。続いた言葉に、帝人は目を瞠った。
「なんですかそれ…」
 ふるふると帝人の肩が震える。
「安くもないお金払って忘れたってなんなんですかそれ! 鍵まで預けておいて…無用心過ぎます!!」
 『添い寝屋』の支払いは前金制で、その金額は決して安いものではない。最初に金額を聞いたとき、帝人はこんなにお金を払ってまで、赤の他人に傍にいてほしいという人が沢山いるということにひどく驚いたものだった。
 そもそも、彼は、病むに病まれぬ事情があって『添い寝屋』を頼んだのではないのか?
 少なくとも、今までの依頼人は皆そうだった。眠れない辛さを抱いて、その辛さを軽くするために、他者の手を必要とするほどに逼迫していて――だから帝人も精一杯彼らのために尽くしたのだ。
 短い間だけれども、責任と誇りを持って行ってきた仕事を軽く見られたような気持ちになってしまい、感情のままにそれを口にしてしまったことに遅ればせながら気がついて、帝人ははっとして顔を上げた。
 池袋最強と呼ばれる男は、鳩が豆鉄砲を食らったような……思いがけないといった表情で、ぽかん、と帝人を見下ろしてる。
 帝人は、自分の顔からさぁっと血の気が引くのがわかった。あくまでも、相手は客なのだ。今の言葉は『お客様』に対してふさわしいものではないだろう。
そのうえ、言ってしまった相手はあの『平和島静雄』なのだ。彼が切れやすく、その力が人並みはずれたものであるということは、池袋の住人として、帝人も十二分に理解している。
だから、拳の一つや二つ飛んでくることを半ば覚悟して。帝人は「すみませんでした!」と謝り、頭を下げたまま両の目をぎゅっと瞑った。
暫しの沈黙……再び。
「あ、あれ…?」
 いつまで経っても覚悟した衝撃が訪れないので。帝人はまた、おそるおそる顔を上げた。
「……その、なんだ…わりぃ」
 帝人が顔を上げた先にあったのは。しゅん、とした顔で大きな身体を小さく縮めるようにして佇んでいる静雄の姿だった。
「え、あの、」
「こっちから頼んでおいて、忘れてたはねぇよな。ほんと、悪い」
「いいえ! 僕のほうこそ、あの……お客様に言っていい言葉じゃなかったというか…」

玄関先でふたり、ぺこぺこと頭を下げあうという奇妙な状況は。コンコンと、金属製の玄関扉が叩かれる音によって打ち破られた。
『だいじょうぶか?』
「セルティさん」
「セルティ」
 どうやらセルティは、帝人の身を心配してついて来てくれたらしい。万が一、静雄が無体を働くようであれば、すぐに出てきて止めるつもりであったのだそうだ。
『やはり帝人はすごいな!』
 そう言って、まるできらきらとした目で見てくるような雰囲気のセルティは、帝人を猛獣使いか何かだと思っているのかもしれない。帝人は内心で苦笑を零した。