遠回りな告白劇【静帝】
静雄はふと見知った少年がベンチに座って肩を落としてるのを見つけた。
ちょうど手が空いていたので先輩風を吹かしたい気分だった。
冬の寒さに静雄自身が冷えていたからかもしれない。
「どうかしたか?」
声を掛けてから名前は何だったかと思い返して別にいいかとコーンポタージュの缶を渡す。
驚いたような少年に「汁粉がよかったか?」と聞けば大げさな程に首を横に振られた。
何度も何度も礼を言われて缶を頬ずりする勢いで有難がられた。
疑問に思って静雄は少年の手を握る。
冷え切っていた。
「お前、大丈夫か?」
「……あ、……すみません」
少年の手は簡単に静雄に握りこめる小ささ。
少し感動する。
「静雄さん、あったかいですね」
「お前が冷たすぎるんだろ。俺のココアもやろう」
少年の腿の間に入れる。
顔を真っ赤にされた。
「……背中が良かったか?」
「いつもそこ温めてるんですか」
「シャワーとか熱いの肩とか背中にやると気持ちいいよな。足の間に温かいのあるのもいい」
そういうものかというように興味深く頷いている少年に静雄は気分がよくなる。
「ももの部分は太い血管あるから冷やしたり温めたりするのは全身が関係あるんだってよ」
「そうなんですか、静雄さんは物知りですね」
褒められて嬉しいが新羅からの聞きかじりの知識で、
これは静雄が誰かの足を折った時に場合によっては危ないと教えられたことだ。
「もう温かくなってきました」
「そんなすぐにはなんねえだろ」
言いながらも少年の手に冷たいとは感じなくなった。
頬にも赤みが出ている。
手を離さなければいけなくなって静雄はココアを渡すんじゃなかったと後悔した。
「二つともカイロ代わりに持ってろ。飲むヤツ買ってくる」
後ろからかかる制止の声も聞かずに静雄は今度は小さなペットボトルを買う。
甘いミルクティー。
「これなら冷ましながら、ちびちび飲めるだろ」
勝手に静雄は少年を猫舌だと思った。
子供はみんな熱い物は飲めないと思っているのか少年の印象からか静雄自身分かっていない。
礼を言いながら早速ぐびぐび飲んで行く少年に実はぬるいのかと静雄は自分が買ったホットレモンを煽って吐きそうになる。
熱は喉を焼いた。
「……すません。僕、いれたてのお茶とかすぐに飲むタイプで」
「いれたてのお茶って熱湯じゃねえのか? まあ、美味いならよかった」
半分以上飲み干されているミルクティーに静雄は満足の息を吐く。白い。
「静雄さん……僕のことどう思いますか?」
どうもこうも良く知らない。
だが、悩み相談を買って出たのは自分だ。
「なにかあったのか?」
「僕……悪い子なんです」
真面目な学生にしか見えない。
真面目に見えて悪い奴はいっぱいいたが少年は仮面を被っているようには思えない。
「何をしたんだ?」
「何もしてません」
勘違いや年頃のちょっとした悩みなのだろうか。
愚痴ぐらい別に聞いてやれると静雄は少年の言葉を待った。
「静雄さんは昨日なにしてました?」
「あー? トムさんと取り立てして……夕飯が露西亜寿司でクリスマス寿司だったな」
「そうです……昨日はクリスマスイヴです」
「おう?」
「今日はクリスマスです」
「ああ」
「サンタクロースがいつプレゼントをくれるか知っていますか?」
「クリスマスじゃねえのか?」
答えてから静雄は少しおかしい気がした。
子供の頃いつもクリスマスには弟と何をもらったか見せ合っていた。
「いや、昨日の夜か?」
大切な日がクリスマスのはずなのにイヴがどうして持てはやされるのか。
「プレゼント、貰えなかったのか?」
子供はクリスマスの前日であるイヴを楽しみにしている。
夜にサンタクロースが来ると知っているからだ。
少年は先ほど「悪い子」なんだと言った。
良い子じゃないとサンタクロースからプレゼントは貰えない。
「大丈夫だ。俺がいま、それ渡しただろ。お前は良い子だ」
「静雄さん、サンタクロースなんですか?」
「あわてんぼうだから遅れてきて悪かったな。気を落とすな。……手袋でもいるか?」
「いえ、飲みもので充分です」
嬉しそうにはにかむ少年に静雄も嬉しくなる。
よかった。こんな純粋な少年が悪い子であるはずがない。
静雄はこれ以上にない善行を行った気がした。
年末に一年の清算をした気分だ。
「静雄さんは僕の恋人ですか?」
「あ?」
「恋人はサンタクロースですよね。静雄さんは僕のサンタクロースなら僕の恋人ですよね?」
「そうか、そうなるのか?」
聞いたことのある歌のタイトル。有名なフレーズ。
十二月中ずっと聞いたような気がする。
「背が高いからか?」
「恋人になってくれますか」
「おぉ、わかった。サンタだからな」
頷いてから少し不思議な気もしたが小さいことだ。
立ち上がった少年が静雄の肩に手を置く。
何だろうかと思ったら近づいてくる顔。
唇にあたる柔らかな感触。香るミルクティー。
「これからよろしくお願いします。僕だけのサンタさん」
ベンチに座って落ち込んでいた姿が嘘のような愛らしいはにかみ。
「お前、実は良い子じゃないな……」
「悪い子ですよ。好きな人とクリスマスイヴを過ごしたいって言えなかったんですから」
「ただのいい子じゃなくてかわいい子だな」
耳まで真っ赤にした少年につられるように静雄の顔も赤く染まった気がした。
冷えた身体にはちょうどいい。
余談
「お前、名前は……?」
「竜ヶ峰帝人です。その内、平和島帝人になって平気ですッ」
意外に名前はあっさり教えてくれた。
作品名:遠回りな告白劇【静帝】 作家名:浬@