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気がつくと、俺は小高い丘を登る小道を歩いていた。

 どこだろう・・・? ここは・・・・・・。ラインハルトは辺りを見回した。

 確かに見覚えがある場所なんだが・・・ああ、そうだ・・・・・・。

 フロイデンのあの山荘に続く道だ。


 何故、こんなところにいるんだろう・・・? わからない・・・・・・。

 それでも足は無意識に山荘への道を歩いていた。

 ゆるい上り坂をぼんやりと歩いていると、ふいに後ろからとんとんと肩を叩かれる。ラインハルトが振り向くと、そこには同盟軍の軍服姿のヤン・ウェンリーが満面の笑みを浮かべて立っていた。

 「やあ!! 元気だったかい?」

 「なっ・・・何で卿がこんなところにいるのだ!!」

 卿は去年、地球教のテロリストどもに暗殺されたではないか!!

 「え〜〜? 何で、って、君が山荘に招待してくれたんじゃないか。姉上のケーキは最高にうまいから一度食べにこいって。お言葉に甘えてやってきたんだよ」

 「・・・・・・・・」

 釈然としない気持ちのまま二人で坂道を再び登り始めると、今度は前方からこちらにやってくる人影がある。それが誰だかわかったとき、ラインハルトは息を呑んだ。

 「遅いじゃないですか、ラインハルト様」

 「キッ・・・!!」

 目の前にいるのは、4年前に亡くしてしまった赤毛の親友だった。ラインハルトは驚きのあまり声も出ない。

  それなのに・・・ヤン・ウェンリーとキルヒアイスは親しげに握手なんかしている。ラインハルトはだんだん腹が立ってきた。自分だけ何もわからずに混乱しているなんて、許せん!!

 ラインハルトは、談笑する二人を無視して、早足でずんずんと坂道を登って行った。すると、見覚えのある、山荘が見えてきた。

 山荘はよく手入れがされているらしく、変わらないたたずまいを見せている。花壇には、たくさんのランが植えられ、あたり一面に香りを漂わせている。

 それに混じって、焼きたてのケーキのにおいがする。忘れかけていた、とても懐かしいにおい・・・ラインハルトは思わず目を閉じて、それを楽しもうとした。

 「はいはい、ラインハルト様。なに突っ立ってるんですか!! アンネローゼ様がお待ちかねですよ」

 ラインハルトは、あとからやってきたキルヒアイスに突き飛ばされるように中に入った。ヤンはそんな二人を見て、楽しそうに笑っている。

 「いらっしゃい!!ヤン提督。ラインハルト、遅かったのね」

 「姉上・・・」

 アンネローゼは、忙しくケーキや紅茶の準備をしている。

 「さあ、そんなところに立っていないでお座りになって。ヤン提督は紅茶がお好きとうかがいましたので、おいしいのをご用意しましたのよ」

 「いやぁ、嬉しいですねぇ」

 「ブランディもございますわよ」

 「ますます嬉しいですねぇ」

 どうして姉上とヤンがこんなに仲がいいのだ!! なんかムカつくぞ!! 俺だってヤンと話したいことがいっぱいあるんだよ・・・。

 そうだ、キルヒアイスとも話したいことがいっぱい・・・・・・

 ラインハルトは、キルヒアイスを探した。すると、ケーキの置いてあるテーブルに陣取って、大きなチョコレートケーキをホールごと抱えこんで食べているキルヒアイスが目に入った。

 「キルヒアイス・・・・お・ま・え・なぁ〜〜〜」

 キルヒアイスはにっこり笑って言った。

 「今日のケーキはチョコケーキにアップルトルテです。でもチョコケーキは私のですからあげませんよ」

 「うるさい!! 半分よこせっ!!」

 「やですよ〜〜〜」

 皿を持って逃げるキルヒアイス。むきになって追いかけようとしたラインハルトは、そのとき扉を開けて入ってきた人とぶつかりそうになった。

 「うわっと、と・・・失礼・・・」

 「いいえ、陛下、遅かったんですね。子供たちが待ちくたびれていましのよ」

 よく見ると、それは自分の妻のヒルダだった。ヒルダは2人の子供の手を引いている。一人は黒髪でもう一人は金髪の子供・・・・・・

 まさか・・・いや、この二人はまだ歩けもしない赤ん坊のはずだ、いくらなんでも・・・ははは・・・・・・

 ヒルダは、ヤンが来ているのに気がついて、子供たちに挨拶をしてくるように言った。

 「はい、こんにちは、フェリックス・ミッターマイヤーです」

 少し年長らしい黒髪の男の子が、元気よく挨拶する。つづいて少し恥ずかしそうに金髪の男の子も・・・

 「こんにちは、アレクサンデル・ジークフリートです・・・」

 かわいいなぁ・・・と、ヤンは下がり気味の目じりをさらに下げ、キルヒアイスは、俗な名をつけましたねぇ、と笑っている。

 「父様、抱っこして!!」

 と、成長した姿のアレクが自分のほうに歩いてくる。抱き上げようとかがんだ瞬間、世界がぐるりと回転したような感覚を覚え、ラインハルトは思わず目を瞑った・・・・・・。


 ゆっくりと眼を開くと、そこは病室だった。

 アンネローゼと、赤ん坊のアレクを抱いたヒルダが心配顔で自分を見ている。

 ああそうか・・・今のは夢だったんだ・・・・・・。

 ラインハルトは薄く笑った。

 「夢を・・見ていました、姉上・・・・・・」

 「そう・・・まだ夢を見たりない? ラインハルト・・・・・・」

 「いいえ・・もう充分に見ました。誰にも見られない夢を充分すぎるほど・・・・・・」

 今度は、違う夢を見ます・・・誰もが見る夢を・・・・・・。

 「宇宙を手に入れたら・・みんなで・・・・・・」



   ENDE

作品名:みんなで 作家名:みのり