先生と皐月。
カウンターで煙草をくわえながら新聞を呼んでいる極月は、長い脚を持て余すように組んで座っている。
皐月の問いに、彼はこちらを振り返ることもせず、素っ気なく答えた。
「そうか?農協王子よりマシじゃねーの」
「さっちゃんはみんなのアイドルだからいいんだもん!」
口を尖らせて反論すると、彼は紙面からちらりと視線だけ上げて、切れ長の目を細めた。
「まあ、その突っ込み所しかねぇ台詞は置いとくとして、実際お前、俺が男前だってとこは否定しねーんだろうが?」
平然とそんな風に切り返され、皐月は不覚にも言葉に詰まった。
あの口うるさい性格を別とすれば、確かに彼は男らしい顔立ちで、若いころと変わらぬすらりとしたスタイルの持ち主だ。
少なくとも女性にもてる容貌であることは否定しきれない。
「………実際そうだとしても、そういうことサラッと当たり前みたいに言っちゃうのが駄目なんじゃね?」
しかし素直に認めるのも釈然とせず言い返すと、極月には軽く鼻先で笑われた。
「バーカ。こんなもん、自信たっぷりのドヤ顔で言う方が駄目だろ」
「いや……うん……まあそうかもしれないけど」
「そんなことより、何なんださっきから。俺に用があるならさっさとしろ」
「えっ」
「これ吸い終わったら、俺はもう行くからな」
追い立てるように言われて、皐月は憮然としてため息をついた。
「うちの職場のおねーさんから質問預かってんの。せんせーの好きなタイプ聞いてこいって」
そう言うと、極月は弾かれたように声を立てて笑い、吸いかけの煙草を灰皿に押し付けながら立ち上がった。
そして座っている皐月を見下ろし、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「悪くて可愛い大人の女」
とっさに返す言葉が浮かばず口を噤んだ皐月を尻目に、極月はその足で店を出ていった。
残された皐月はしばらくののち、テーブルに頬杖をついて苦笑いを浮かべた。
「………うーん、どうやって報告したものかなあ」