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カッサンドラ

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遥かな未来、あるいは昔。大きな強い国があった。
代々の王は予知や遠視の力を持っていたが、あるとき一際強い力を持つ王子が生まれた。
王は、綱吉と名づけられた王子と国の、行く末を案じた。強すぎる予知の力は、時として、より大きな災厄を招く。
王は王子の力を封じようとしたが、王の力さえ王子に及ばず、叶わなかった。
迷いに迷い、苦渋の末、王は決断した。
「仕方がない。この子の言葉を、誰も信じないようにしよう」
かわいそうな王子は気が違っているということになり、幽閉された。
「誰か助けて!ねえ、誰か、俺の話を聞いて!」
やさしい王子は涙した。毎日助けを求めた。己の自由でなく、予見した不幸の回避を願って。
しかし、日々我が子を見舞う王を除き、誰も王子の言葉を聞かなかった。

王子が14になったとき、隣国の宰相の息子がやってきた。
骸という名の彼は、綱吉と年が近かったが、美しい外見と、性格の悪さで有名だった。
王の姪にあたる娘との婚約のために王宮を訪れ、やがて親類になるはずの王族たちに挨拶を済ませた。
「これで王族の皆さまは全てですね」
彼が確認したとき、一様に皆は視線を逸らせた。
「もう一人いるのだ。そうだな、一度くらいは会っておいてくれるか」
王は、幽閉されている王子の元へ、彼を案内した。親族でもない誰かを王子に会わせるのは、初めてのことだった。

少し患っている子がいる、と聞いても、骸は動じなかった。
「そうですか、お気の毒ですが珍しいことではありませんね」
隣国の宰相の息子は、綱吉と顔を合わせた。王子は骸に言った。
「お願い、信じて。10日後の夜、西の都で火事が起きるんだ。たくさんの人が死んじゃう。みんなを助けて」
「生憎、僕は誰の言葉も信じたことはありません」
そっけなく隣国の宰相の息子は、踵を返した。王は頭を振って、部屋を出てから骸に言った。
「実は息子は、狂ってなどいない。ただ、予言の力が強すぎる。皆が知ったら、盲信して祭り上げるか恐れられて殺されるかどちらかだ」
骸は王に言った。
「興味ありません」
しかし予言の夜、火事は起きなかった。初めて、綱吉の予言が外れた。
翌朝、もしかして何かしたのか、と王は骸に聞いた。
「まあ、僕も王族となる国ですので、いくつか都を視察しまして。最も貧しい地域が西の郊外でしたので、婚礼の祝いの代わりに火を買いあげました」
「火を、だと」
「今は冬で空気が乾燥しています。布切れだけのあばらやで、やみくもに焚火をするのを止めるかわり、冬の間だけでもまともな空き家を借りるよう、住民に約束させました。頂いた支度金を全部使ってしまいましたが、婚礼の準備は済んでいるので問題はありません」
同じことを王や重臣がしたなら、他の地域から不公平だと苦情が出たろうが、国民から見たなら、骸は外国人の若様に過ぎない。結婚式にけちがつく前に、不幸の要因は除いておくに越したことはなし、万一文句が出たならお金持ちの子供の気まぐれと笑いとばすよう、と骸は王に言った。

次の日、王は綱吉が呼んでいる、と骸に耳打ちし、綱吉の部屋の鍵を渡した。
「行くかどうかは好きにしていい」
「当然です」
骸は行く気はなかったが、予定していた式の予行練習が変更になって暇になり、綱吉の部屋を訪れた。
「明日、かあさんがひどい怪我をするんだ。お願い、なんとかして」
「さあ、僕の知ったことではないですね」
翌日、ちょっとした騒ぎが起こった。綱吉の母と、綱吉の食事が入れ替えられてしまったのだ。
綱吉の食事には、いつも眠り薬が使われていたため、薬に耐性のない王妃は丸一日眠っていた。
侍女は平謝りで平伏した。
「申し訳ありません、王妃様が、子供の食事が粗末だと聞いたから確かめたい、と仰せで・・」
王妃に何か言ったか、と王は骸に聞いた。
「気づいたことを言ったまでです。王子様は囚人のような食器をお使いになっている、あれでは中身も知れたものだ、と」
綱吉の親戚の王族たちは、綱吉を遠巻きにしながらも案じていた。母親ならばなおのことである。侍従がいなくとも怪我をする心配のない丈夫な食器に、無害な薬を盛っていることは、父王以外の人間と話せないはずの綱吉が心を損なっていないことで想像できた。息子の境遇について、母后を安堵させるのは悪いことではない、と骸は語った。

婚礼の前夜、骸は綱吉の部屋を訪れた。
綱吉は骸に言った。
「俺、今夜誰かに攫われるんだ。顔は見えなかったし何をされるかもわからない。こんなこと初めてだ。怖いよ」
「今、僕とここを出るのは、嫌ですか」
綱吉は目を見張った。
「明日の結婚相手の君の従姉妹は、身分違いの恋人が既にいる上、全く僕の好みではありません。明日の式は本当の恋人と挙げてもらうことにして、君が僕の国に来なさい。この国の言葉はほとんど通じませんので、閉じこもる必要もない。父に相談したら、どの道政略結婚だったのだから王座に近い人質は願ってもない、と喜んでいましたよ。父も僕と同じく、君の言葉はわかっても予言など信じない人種ですので何も心配は要りません」
綱吉の父王からは綱吉が望んだら連れて行け、と言われていたが、骸は綱吉の返事を待たず、綱吉を抱えあげ、王宮を出た。
作品名:カッサンドラ 作家名:銀杏