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無料配布『静帝inワンダーランド』

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雰囲気をお伝えするために1p目だけ



 池袋、昼下がり、ロッテリア。その窓際の席に座って、仕事の休憩時間をまどろんで過ごしていた静雄は、目の前を帝人が通り過ぎるのを見かけて、すっかり目を覚ました。

「竜ヶ峰?」

 名前を呼びかけても、ガラス越しに声が聞こえる訳が無い。しかし、そんなことよりも、もっと大きな問題があった。静雄の前を通りすぎた帝人の耳に白いものが揺れていた気がするのだ。
 すっかり冷えてしまったコーヒーを急いで飲みほして店を出た静雄は、池袋の街中を小走りに駆けて、人込みをすいすいとすり抜けていく帝人の後ろを追いかけた。

「竜ヶ峰っ!!」

 遠く離れた場所から呼びかけたところで、静雄の声に気付いた様子もなく、帝人は後ろを決して振りむかない。声を上げても振り向くのは静雄とすれ違う、まったく関係のない人間たちばかりだった。そんな人々の波に阻まれて、なかなか帝人に近づけない。

「おい!竜ヶ峰、待てよっ!!」

 いつもなら、むしろ帝人の方から静雄を見つけて声をかけてくれることの方が多かった。
 池袋の路地を帝人の姿を追いかけて、駆け抜ける。けれど、いつまで経っても追いかける背中は小さくならなくて、静雄は訝しく思った。――帝人はこんなに足が速かっただろうか?
 帝人を追いかけ、路地の奥へ奥へと進んでいる間にいつしか外が真っ暗になっていた。最初はビルの影に入ったせいだと思っていたが、上を見上げると空も暗い。自分は昼休憩をしていたはずだと静雄はまた疑問を覚えたが、それよりも今は帝人の方が気になった。角を曲がる時、やはり帝人の頭上の白いものがゆらゆらと残像を残した。
 角を曲がると丁度、帝人は路地に面したビルの一つにひょいっと飛びこんで姿を消した。静雄が慌ててそのビルの前に駆けつけると、丁度、入り口の扉がぱたりと閉じたところだった。
 池袋の繁華街にやけに古めかしい取っ手のついた扉を不可思議に思いながら、その重たい木製のドアの金属製の取っ手に手をつけた。
 隙間から漏れ出る光が思いの外、眩しい。眩しくて思わず目を閉じてしまったが、静雄の耳にはどこか聞きなれた声が聞こえて来た。

「あれえ、めずらしい!お客さんみたいよ、ゆまっち!」
「お客さんみたいっすねえ?門田さん」
「うるせえ、これ読み終わるまで声かけんなって言っただろ?」

 だんだんと回復してきた視界に、赤い色をした壁に囲まれた広い部屋が映った。その部屋の真ん中には大きなテーブルが一つどーん、と鎮座している。
 それを囲むのは茶色い毛のうさぎの耳を生やした狩沢と猫みたいな耳と髭を生やした遊馬崎と、そして、トレードマークの帽子の代わりにシルクハットを被った門田だった。しかも皆、一様に静雄の仕事着と同じような白シャツに蝶ネクタイをしている。

「門田?おまえ、そんな恰好で、こんなところでなにしてんだ?」
「はあ?おまえ誰だ?」
「誰だって、何言ってんだ、おまえ……?」

 門田のもの言いにカチンときた静雄は眉を顰めたが、相手は静雄をからかっているわけでもなく、心底、不思議そうに静雄を見上げた。

「おまえこそ何言ってる?俺とおまえは初対面だが?」
「だから、お客さんよ、お客さん!」
「そうそう、このお茶会を始めてから初めてじゃないですか?他の人が参加するの」


こんなかんじでお話が進行します。
ハートの女王様はあの人です。