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Xmasサンドイッチ

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新宿の情報屋、折原臨也が最近ずいぶんと大人しいらしい。
昨今ちまたでは、そんな噂がささやかれていた。もともと気まぐれで気分屋の彼の行動力は彼が何かに夢中になっている間その件にすべて注がれ、それ以外の仕事がおろそかになる。助手にとって一番の悩みのタネだった。その間の折原のルーティンワークは助手にすべて任されることとなり、助手はそれまでの人脈を駆使して折原の不在をカバーしていた。めぐりめぐってそのルーティンワークの一部が、私立来良学園に通う一介の高校生、竜ヶ峰帝人によって賄われていることを知る人物は数少ない。そして、それが有能なる助手、矢霧波江なりの上司へのいやがらせであることを知る人物は九十九屋真一くらいのものであった。

そして今また、折原臨也は個人的に面白い何かに熱中しているらしい。そしてその拠点がどうやら池袋にあるらしい、年の瀬も迫り、浮き足立った街にそんな噂が流れていた。

甘楽『太郎さんってば、お正月は実家に帰っちゃうんですかぁ?甘楽、寂しいっ』
田中太郎「いえ、今年はこっちにいる予定ですよ。ネットビジネスのほうがちょっと忙しくなってまして」
甘楽『ちょっと!私と仕事とどっちが大事なんですか!』
田中太郎「は・・・?え、そういう話でしたっけ?っていうか、そもそも僕と甘楽さんはそういう関係じゃないですよね」


帝人の通う来良学園も冬休みに入り、唯一の収入源であるネットビジネスに多くの時間を割けるようになった帝人は、どうやらほとんどの時間、部屋にこもって作業をしている。そして時々、息抜きという名目でチャットルームに顔を出すのだった。

甘楽『だって太郎さん、最近あんまり構ってくれないじゃないですかぁ』
田中太郎「そうですか?」
甘楽『そうですよぅ。クリスマスだってすっぽかされたし。心の広い甘楽ちゃんも怒るときは怒るんですからねプンプン!』
田中太郎「クリスマスはバイトって言いましたよね。拘束時間短くて割がよかったんで、サンタの格好してケーキ売るバイトしてたんです」
甘楽『知ってますよー。すっぽかされた代わりに、ちゃんと太郎さんにバレないように遠くから写メ撮ってあるんですから』
田中太郎「え、いつの間に。場所教えてないのに、っていうか、来てたんならケーキ買ってってくださいよ。あと画像は削除してください」
甘楽『えー、いくら販売員が太郎さんでも、甘楽はグルメなので美味しくないケーキを、しかもホールでなんて買いませんよ〜。太郎さんの手作りっていうなら話は別ですけどー』
田中太郎「・・・」
甘楽『ちょっ・・・そこ無言でスルーしないでくださいよぉ!甘楽ちゃんの一世一代の口説き文句を!乙女に恥をかかせるなって教わらなかったんですか?もぉっ!そんなだから太郎さん、モテないんですよっ』
田中太郎「平和島さんはちゃんと買っていってくれましたよ、ケーキ」

内緒モード『ちょっと、俺の前でその名前出すのやめてくれない?君の口から聞きたくないんだけど』
内緒モード「あれ?臨也さんのすねてる理由、そこですか」
内緒モード『は?誰がすねてるんだよ。純粋に不愉快ってだけだろ』
内緒モード「自覚なかったんですね。あ、もしかしてあれですか。あの日、見てたんですね?僕と静雄さんが話してるところ」
内緒モード『君が誰と仲良くしようと別にかまわないんだけどさぁ、なんでシズちゃんなの?よりにもよって。俺の誘いは断ったくせに』
内緒モード「そりゃ断りますよ」
内緒モード『何それ、さすがに俺でも傷つくんだけど』
内緒モード「当たり前じゃないですか。わざわざクリスマスの夜に、カップルばっかりのレストランで男二人で食事とか、誘うほうがおかしいんですよ。臨也さんは気にしないだろうけど、僕は気にするんです!」

臨也はキーボードをたたく手を止め、臨也が嫌だという理由で断られたわけではないということに、ほっと胸をなでおろした。
折原臨也は今、全力で人生初めての恋をしている。引く手あまたの折原臨也ともあろうものが何を血迷ったのか、小柄で見るからに平凡な高校生男子に想いを寄せているのだ。




「あ、平和島さん!こんばんは」
「よぉ、竜ヶ峰。こんな時間までバイトか?」
「はい!平和島さんは、仕事帰りですか?」
「まあな」
きらめくイルミネーション、そこかしこの店からもれ聞こえてくる耳慣れたメロディ。クリスマス一色の街頭で、マッチ売りの少女よろしく、若干サイズの大きいサンタ衣装を身にまとった小柄な少年がケーキを売っていた。安物の衣装はファーがついているわりに薄手で、見るからに寒そうだった。
「あの、もしよかったら、ケーキ買っていってくれませんか?平和島さん、甘いものお好きでしたよね?」
「ああ、お前が一緒に食ってくれんなら買ってもいいぜ」
「え?」

言葉がよく聞き取れなかったのか、少年は小首をかしげ、街の光をすべて閉じ込めたようなまっすぐな瞳で金髪の男を見上げた。金髪の男は、サングラスの奥で一瞬悲しそうな眼をしたが、すぐに自嘲するような笑みを作って少年に手を伸ばした。
「冗談だ、気にすんな」
「?」
静雄の大きな手のひらが帝人の頭に乗せられ、サンタ帽子ごとぐらぐらと揺さぶられる。
「ひとつ買ってってやるって言ってんだよ、いくらだ?」
「あ、ありがとうございます!」
甘酸っぱくも初々しいやりとりを目の当たりにした折原臨也は、くるりと踵を返すと池袋の雑踏を駆け出した。
(シズちゃんのくせにシズちゃんのくせにシズちゃんのくせに・・・!っていうか帝人くんも帝人くんだ、シズちゃんなんかに誘われてんなよ!かわいそうな帝人くんが早くバイト上がれるようにケーキ買い占めてやろうと思ってたけど、いつまでも寒空の下で売れ残りのケーキに囲まれているがいいさ!”帝人くんのばか!)


折原臨也は、人生初めての恋をしている。初めてであるがゆえに、好意の伝え方も愛し方もどこか不器用で、的外れで、すべてが不発に終わっていた。彼自身、そんな人生のなかで初めて出会った「ままならないこと」に戸惑っていた。しかし折原臨也の辞書に「素直になる」という項目は存在しない。なぜなら、それは折原臨也が折原臨也でなくなることと同義だからだ。それゆえに彼の歪んだ恋は空回りし続けていた。


内緒モード『じゃあ何?クリスマスじゃなければ、いっしょにご飯食べに行ってくれるってこと?』
内緒モード「それならいいですよ、別に」

作品名:Xmasサンドイッチ 作家名:猫沢こま