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【T&B】グッドラック・チャーム

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「昨日、薬を出しておいたはずだが…飲まなかったのか?」
 いつもはあまり抑揚の無いトラの口調が弱った身体には少し刺々しく染みて、虎徹はもそもそと布団を掻き抱いた。
「寝たら治るかなって…思って」
「悪化しているようだが」
「……うん」
 久々にやらかしてしまった、と虎徹は大人しく反省した。昨夜から感じていた喉の違和感を気のせいにしてトラの勧める薬を飲まずに寝たら、朝から節々の痛みと頭痛と悪寒、いわゆる風邪の諸症状全般に襲われ、バーナビーとトラに絶対安静を言い渡されてしまった。
「38.9℃。コテツの平熱を上回っている」
 もう慣れてしまったトラの検温を受けて、どうりで頭がぐらつくわけだと自然、口元が緩む。食欲はあるかと
聞かれて布団に潜ったまま首だけ振ると、そうか、と答えるトラがしゅんと項垂れた様な気がした。理由を探して視線をベッドサイドへ移せばそこには小さい土鍋があって、詰った鼻が中身の匂いを微かに嗅ぎ取った。
「それ、作ったの?」
 肩を落としてこくりと頷くトラが妙に可愛くて、虎徹はもそもそと起き上がる。
「少し貰うかな」

「マスターに、コテツは病院には行かないだろうから、ちゃんと薬を飲むよう見張っていろと言われた」
「どんだけ信用ないの、俺」
 確かに病院は苦手だけど、さすがにしんどかったから薬ぐらい飲むって、と胸の内だけで反論しておく。言葉通り、トラの監視の下薬を飲み終えた虎徹は再びベッドに横になった。少し離れただけなのにひんやりとする布団に身震いすると、食器を片づけていたトラが首を傾げる。
「寒いのか?」
「んー…少し」
「エアコンの温度を調整してくる」
「それもいいんだけど…」
 立ち上がりかけたトラの腕を引っ張って、虎徹はトラを布団の中に引っ張りこんだ。風邪をひくと人恋しくなるのはあながち嘘ではないらしい。虎徹がトラの腕を掴んだのは咄嗟の事だった。
「コテツ?」
「お前なら、風邪はうつらないだろ」
「確かにうつらない、が」
「もうちょっといろよ。俺が寝るまででいいから」
「分かった」
 従順に頷くトラに安堵して、虎徹は目を閉じる。我ながら子供染みた我儘だと自嘲しながら、倦怠感に眉を顰めた。
「コテツ、寒いなら私のヒート機能を使ってみるか」
「なにそれ」
「一定時間私の外皮温度を上昇させる機能で、それで暖を取ることが出来るはずだ」
「んーと…行火みたいになれるってことか?」
 すげーな、と感心していると抱き寄せられて、早速布越しに触れ合う腕や胸からトラの熱が伝わってきた。虎徹もトラを抱き返してぴったりと密着すると、その温かさからか緩やかにやってきた眠気に意識が朧になる。そうして暫く隣で大人しくしていたトラだったがもぞもぞと動く気配がして、何事かと虎徹が目を開ける前に額に柔らかな感触が触れていった。
「トラ?」
 ぼんやりと目を開けるとトラの顔は随分近くにあって、今キスしたよなぁ、と反芻しながら虎徹はついトラの唇を見つめてしまった。アンドロイドだが、見た目や感触は生身の人間と全く変わらない。
「早く良くなって欲しい、から…」
「もしかして、バニーに教えてもらった?」
「いや、これは…不快だったら謝る。ごめんなさい」
 トラの行為は少し意外だったが、彼の答えの方がもっと意外だった。わさわさとトラの背中を撫でて、さんきゅ、と小さく礼を言うと、虎徹はトラの腕に納まる様に丸まってくっつく。緩んだ口元はどうせ見られないだろうと、そのままにしておいた。

 虎徹が目を覚ますと隣にいたトラはいなくて、見慣れた背中がベッドの端に控えめに座っていた。
「ばにー…?」
「虎徹さん、具合はどうです」
「んー…朝よりはマシになったかも」
「“かも“ってなんですか」
 額に触れてくるバーナビーの手のひらの温度が程良く気持ちよくて、再び眠りそうになりながら適当に返事をしたらぴしゃりと窘められてしまった。でも少し、身体が軽くなったのは本当だ。それにしても、バーナビーがいるということはもう夜なのだろうかと時計を見やるとまだ午後の早い時間帯で、虎徹の頭が混乱する。
「バニー、仕事は?」
「早退したんです。トラから動けないと連絡があったので」
「え、トラどうしたの?」
「充電が切れただけです。まだ余裕があったはずなんですけど」
「あー…それ俺の所為かも」
 首を傾げるバーナビーにトラから聞いた機能の説明をすると、なるほど、と渋い顔をした。
「高負荷になるから、それですぐ充電が切れたんでしょう。緊急だったから何事かと思いましたけど…まぁ、ユーフォリア見られたから良しとします」
「ゆー…なに?」
 聞き返してもバーナビーは眼鏡を押し上げただけで答えてはくれなかった。薄らと頬が染まっているのはどうしてなんだ。じっとりとバーナビーを見つめていたら、着替えませんか、とあっさりと話を変えられてしまった。けれど実際寝ていた間に汗をかいたようで、べたべたした不快感に負けて、そうだなと起き上がる。
 バーナビーが用意していた蒸しタオルで身体を簡単に拭かれ、新しい寝間着に袖を通すと少し気分も晴れた気がした。背中に回された腕で恭しくベッドに寝かされると、すぐさまバーナビーが布団を肩まで丁寧に掛けてくれる。その甲斐甲斐しさにむず痒くなって、耐えきれず虎徹はもそもそと寝がえりをうった。
「虎徹さん、何か食べたいものありますか」
 何処か嬉しそうなバーナビーの声に、実は看病楽しんでないかと疑いの視線を送ってしまう。朝よりは食欲が戻ってきていたから、虎徹がふと思いつくものを挙げようと思ったら、
「あ、炒飯とかハンバーガーとかはだめですよ。消化に悪いですから」
 と付け足されて、さらにメニューを絞り込んでいると、
「あと、僕が作れるものでお願いします」
 そうさらに条件が増えて、結局選択肢なんて無いんじゃないかと虎徹はげんなりした。
「お前、おかゆしか作る気ないだろ…」
 最初から思わせぶるなと唇を尖らせると、楽しそうなに笑うバーナビーが屈んできて目の前が陰る。すぐ作って来ますから、と音を立てて額にキスをされて、トラにも同じ所にキスされたことを思い出す。トラはバーナビーに教わった訳ではないと言っていたけれど、面白い偶然なのだろうかと虎徹は小さく噴き出した。
「なに笑ってるんですか」
「いや…俺、早く治すわ」
「そうして下さい」
 部屋を出ていくバーナビーの足音を聞きながら、虎徹はもう一眠りしようかと目を閉じた。