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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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「わしらの力を合わせれば、世界を切り分けられるじゃろう」
 崩れ行く世界の中で、その言葉の意味は島左近には即座に理解が及び、即座には信じられなかった。
 見上げた先では既に仙界の住人たちはその力を蓄え始めており、左近は思わず足を踏み出す。
「…一体何を」
 する気なんですか。
 伏犠さん。

 言葉も告げ終える前に、周囲が光に包まれる。
 思わず駆け出そうとした足はどこにも踏み込めず、伸ばした手は宙を掻く。
『あなたは、あなたの時を生き抜いて…』
 彼方から優しい声が聞こえる。
 だがそれっきり、誰の声も聞こえない。
「…冗談やめてくださいよ…!」
 光の向こう側で、最後にあの仙人がどんな顔をしていたかすら見えなかった。
「伏犠さん!!!!」
 


 朝。障子から差し込む光と鳥の声で目が覚める。
 朝、だ。
 左近は見上げた見慣れた天井に感じる違和感に眉を顰め、布団から身を起こす。
 見慣れた自室、昨夜から何一つ変わっていないはずなのに、ひどく懐かしいような感覚もあり、軽く頭を振る。
「昨晩飲み過ぎたかねえ…」
 夜着から執務用の服へと着替えながら、ふと先ほどまで寝ていた布団を振り返る。
 何か随分と長い夢を見ていた気がしたが、夢の内容は一切思い出せなかった。

「お、お早うございます、殿」
「左近か。俺よりも遅い登城とはいい身分だな」
「殿が朝早すぎなんですよ」
 城の廊下ではち合わせた三成に軽く声をかけ、その半歩後ろに付いて三成の政務室へ向かう中。
「ときに左近」
「なんです?」
 三成は足を止めて左近を振り返るが、何と言うべきかを暫し迷う様子を見せた後、
「…いや、何でもない」
 言葉を切って再び歩き出す。
「何ですか、殿。気になるじゃないですか」
「お前に言っても詮ないことだ。…それよりもお前、多少は控えろ」
「はい?」
 何を咎められているのかさっぱりわからない左近は思わず頓狂な言葉を返し。
 幾分イラついた面持ちを見せた三成はずかずかと政務室へと向かい、部屋に入るなり隅にあった卓から鏡を取り出し、左近へと投げつける。
「首」
「ちょっ…殿、割れたらどうするつもりなんですか」
 咄嗟に受け取った鏡で言われたままに首のあたりを見れば、見事に鬱血した痕が見えており。
「…あー…こりゃあ…」
「お前の私生活にまで口をだす気はないが、目障りだ。せめて見えないところにしておけ」
「いやーそりゃあ無理ってもんでしょ?こういうのは…」
 擦れば誤魔化されないものかと左近が指先でその痕に触れた途端。
『左近…』
 不意に記憶をよぎった声に指が止まる。
 聞いたことのない男の声。
 聞いたことはないはずの、やけに耳に馴染んだ声。
 そういえば、この痕は、一体誰に付けられたのか。
「…左近?どうした」
 三成の声に左近は我に返り。
「…あぁ、すみません。ちょっとそのへんの下女に白粉貰ってきます。多少は目立たなくなるでしょ」
 首筋を掌で隠し、呆れたような溜息を背に受けながら左近は一旦三成の政務室より外に出る。
 きっと昨夜かその前か、酔った勢いで引っ掛けた女にでも付けられたんだろう。
 そう結論づけて、それきり。
 記憶をよぎったその声のことも、不思議と気に留めることすら、なかった。

作品名: 作家名:諸星JIN(旧:mo6)