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君の知らないささやかな幸福

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「絶対今年の大晦日は除夜の鐘まで起きていますから!」


あ、もしも寝そうになったらその時はちゃんと臨也さんが起こして下さいよ?


(そう言っのは帝人くんの方だったのになあ・・・)


「絶対これ寝てるよね・・・」


そう呟いて臨也は横に座る帝人を見る。
今年は絶対大晦日は除夜の鐘を聞くまで起きていると意気込んでいたが、
努力も空しく既にうつらうつらと舟を漕ぐ始末。
これでは除夜の鐘まで起きていると言うのはとてもじゃないが無理そうな様子だった。


(本来なら此処でしっかり起こしてあげるべきなんだけど・・・)


そう思い、再びちらりと横目でソファーの上で舟を漕ぐ帝人を見た。
眠そうなとろんとした瞳、少し伏せられた長い睫毛
時々眠気を耐えるように顔をしかめて目を擦る仕草。
それら全ての仕草が起こすのが勿体無い位愛らしく、
臨也としてはもっとこの姿を眺めていたいと思っていた。


(でも起こさないと絶対後で怒るしな・・・・仕様が無いか)


そう思いながらひっそりとため息をつき、帝人を何とか起こそうと声をかける。


「・・・・帝人くん、起きてよ。除夜の鐘聞くんじゃなかったの?」

「・・・んー・・・・」


肩を揺さぶりながらそう声をかけても唸る様な声しか返ってこない。
この様子では帝人自身起きる気は無いようで、流石に臨也も起こすのを諦める。


(俺はちゃんと声かけたんだし・・・これで起きなかったのは帝人くんの責任だよね)


そう一人で結論付けて、再び眠る帝人の様子を眺める。


(やっぱり可愛いなあ・・・)


そんな事を考え、帝人のあどけない寝顔を見つめる。
気持ちよさそうに眠る姿に臨也は思わず頬が緩みそうになったが、ぐっと耐える。
そんな時に、


「んん・・・」

「・・・えっ?うわっ!ちょっと・・・帝人くん!?」


臨也がそんな事を考えているとは知らない内に、
帝人はいよいよ本気で眠りの世界につきそうになっているのかソファーから前のめりに倒れそうになる。
慌てて臨也が腕で帝人を支えてソファーに引き戻した。


「・・・っと、危なかった・・・・」


そう言いながら油断したのが悪かったのか、今度は臨也の方に倒れ込んでくる。
それを再び腕で受け止めようとするがそんな努力も空しく、


「全く、帝人くんてば危なっかしい事この上ないよ・・・それにしてもこの体勢は俗に言う・・・膝枕?」


腕で間に合わなかった代わりに帝人が倒れ込んできたのは、臨也の膝の上だった。
その事に僅か動揺していた臨也だったが、そんな状況も物ともせず眠り続ける帝人を見て脱力した。


「ちょっと帝人くん・・・・いくら何でも鈍すぎじゃない?この状況になっても気付かないで寝てるなんて・・・・度胸あるね」


自身の膝で眠り続ける帝人を見ながら嫌味を含めつつそう言った。


(何だかいつもより更に顔立ちが幼く見えるな・・・しかし恋人である俺の膝で無防備に寝るなんて仮に襲われても文句言えないよ?)


そんな事を考えつつ臨也は、帝人の黒く柔らかい髪をゆっくりと撫でた。


「・・・・ま、そんな事したら口聞いて貰えなくなりそうだし・・・・・今回はしないけどね?」


ふわりと笑いつつ臨也はそう呟く。
するとつけっぱなしにしていたテレビから除夜の鐘の音が聞こえた。
どうやら年が明けた様だった。


「あーあ・・・とうとう帝人くん起きないまま年が明けちゃったねぇ・・・」


笑顔のまま寝ている寝ている帝人にそう話しかける。
無論、眠りについている帝人からは返事は無い。
臨也はそんな帝人の寝顔をもう一度見つめて、起こさない様にそっとキスを落とす。


「・・・新年明けましておめでとう、帝人くん」


(本当に・・・・君の傍で新しい年が迎えられて良かったよ)


臨也はそう思いながら穏やかに笑った。





君の知らないささやかな幸福

(君とこうして過ごせる事に、どれだけ俺が救われているのかなんて)

(きっと君は知らないんだろうね?)