羨むとは
『――ちょっとお前、余り十代にくっつくと許さないよ!』
過去へ急がなければならない、そんな話になって二人でDホイールに跨ったその時だった。
背後から頭の中に響くような声が、やれそんなにくっつく必要があるのかだの早く十代から離れろだのと喚いている。先刻出会った遊城十代と言う人が連れている――DMの精霊、らしいのだが。
「無理言うなよ、ユベル。しっかりつかまってないと振り落とされるかもしれないし、何より運転する遊星が危ないだろ」
『そうにゃ、バイクの二人乗りはそれでなくても危ないのにゃ』
どう声をかけていいのか分からず戸惑う遊星の背中で、十代と眼鏡をかけた男(彼も精霊…なのだろうか、遊星には人間にしか見えない)に諭され、十代から遊星を引きはがさんとしていた精霊はいよいよふん、と頬を膨らませて姿を消してしまった。
「あ、拗ねた」
十代は困ったように苦笑いを浮かべるだけだ。姿を消してしまった彼女(と言っても良いのだろうか)がどこにいるのか、遊星にはわからない。
「……良いんですか?」
「うん?」戸惑うように尋ねる遊星に、十代を笑みを浮かべながら答える。
「――さっきの、」
「ああ、ユベルか。いつもの事だから気にしなくていいぜ。こっちこそ、悪かったな」
ほら、急ごうぜと言われては、遊星もそれ以上追及はできない。ホイールのエンジンをかけながら、十代の背後を横目で見る。しかしそこには何もない。
もう何も見えないのだが。
(――精霊とは、ああも人間らしいものなのだろうか)
微笑ましさに思わず笑みがこぼれそうになって、遊星は慌てて使命を思い起こそうとしたのだった。