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年越し

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セルティはマンションでのんびりと歌番組をみていた。歌の上手さや演出、ゲストのトークについてのコメントを興奮気味PDAに打ち込むと、すぐ隣にいる新羅がコメントを返してくれる。
長時間にわたる歌番組は後半に差し掛かり、演歌の演目が多くなってきた頃。セルティの携帯電話が突然、軽快な音を鳴らし始めた。メールの着信ではなく、電話の着信である。

ああ、もう。
一体こんな時間に電話をしてくるなんて非常識なやつは誰だ!

ぷんぷんと怒りながら通話ボタンを押す。同時に、受話口からテンションの高い声が聞こえてきた。

「いやー、もう今年も終わってしまうねぇ。運び屋はもう休業かい?」

そもそも、喋ることの出来ない人外の存在に対して電話をかける人は限られており、相手を予測できなかったセルティは何故、電話を取ってしまったのかと後悔した。
新宿にいる情報屋、折原臨也だ。

「君のことだ、新羅とのんびりテレビ番組でも観て新年を迎えようとしているんじゃないかな。違う? 違っても俺には何の関係もないんだけどねぇ」

だからどうした。

次から次へと紡がれる意味のない言葉にイライラしながら通話口を叩く。早く本題を喋れ、というセルティなりのメッセージだった。

「ああ、そうそう。本題なんだけどさ、良かったら最後の依頼をしたいんだ。……あ、まだ切らないでよ。運び屋はそんなに白状じゃないだろ。荷物の場所は――」

今すぐ切ってやろうか、とも思っていたが牽制されてしまえば、セルティの性格から切ることは出来なかった。仕方なく、告げられた場所を近くにあったメモ帳に走り書く。

「ということだから、配達場所は荷物にメモを挟んであるから、よろしく」

用件だけ言い終わると、プツっと簡単に通話が切れる。なんて身勝手なやつなんだ。そう怒っても相手に伝わるわけはなく、セルティはテレビ画面を名残惜しそうに見る。

「セルティ、大丈夫?」

顔のないセルティの感情が読めるのか、心配そうに見つめてくる同居人に、セルティはPDAを打ち込み、状況を伝えた。

『臨也から依頼が入った。ちょっと出てくる』
「なんだって!? あいつ、こんなときにそんな依頼をしてくるのかい? 僕とセルティの大切な時間を……」
『はいはい、帰ってきたらゆっくり過ごそう』

メモをポケットに突っ込んで、PDAで場所を確認する。

片道30分といったところか。

目印になるのは料亭であり、そのすぐ側に指定されている。メモを挟んでいるということは、臨也自身はそこにいないということを示している。

「セルティ。行かなくて良いよ! 臨也なんて無視しちゃえ」
『運び屋は信頼関係が重要だから。日付が変わるまでに戻ってくるよ』

そう入っても、本当に戻ってこられるのかは、運ぶ場所次第とったところだ。臨也の拠点ならギリギリ戻れるような距離に、セルティはため息を吐いた。本当に息を吐いたわけではないが。


寒い風が吹く中、セルティは愛馬を走らせた。
目立つ道路は検問が張られている可能性が高いことを考えて、セルティはあえて狭い道を選んで進む。多くの人は広場に集まっているのか、自宅にいるのか、ほとんど人に出会わずに目的の場所へつくことができた。
建物の影に置かれた荷物は、紫色をした風呂敷に包まれていた。

なんだ、この荷物。

風呂敷の結び目を持つ。見た目に反しない程度の重さがあった。臨也の言う通り、結び目の下に紙切れが一枚挟まれていたのか、ひらりと落ちる。
その紙に書かれた住所を見て、思わずセルティはない首を傾げた。そして、何度も見返す。見返すたびに、住所が変わるわけもなく、何度見てもその住所はセルティが住んでいる新羅のマンションの、新羅の部屋だった。


慌ててマンションに駆け込み、チャイムを鳴らす。すると、新羅が機嫌よくドアを開く。

「セルティ、おかえり~」

突然抱きつく新羅を、右手に携えた荷物を守りながら抱きとめる。セルティは新羅からの酒の匂いに思わず不審に思った。
玄関先には男物の靴が普段よりも一組多い。ただの来客ではないことを推測し、新羅を引きずりながらマンションに上がる。
テレビの点いたダイニングで、一人のんびりソファに座る男がいた。

「やぁ、思ったより早かったね」

荷物をここに届けるように指定した依頼人そのものだった。

『お前、何故私に頼んだんだ!』

荒っぽく荷物をテーブルに叩きつけると、ずいとPDAを臨也に見せ付ける。

「正確確実な運び屋さんだからじゃないか。あ、日付変わったよ」

臨也の言葉に反応して、テレビ画面を振り返ると、示された時刻は00:00を過ぎていた。

せっかく、新羅とカウントダウンをしようと思っていたのに……!

以前から立てていた計画を潰されて、のうのうと過ごしている情報屋にわなわなと怒りに震える。

『お前はいい加減に……』
「あけましておめでとうございます、っと。じゃあ、早速いただきますか」

セルティの抗議を無視して、臨也は届いたばかりの荷物を広げる。風呂敷の中から出てきたのは漆器の重箱だった。三段という、とうてい一人で食べるには多すぎる量だった。

「まぁまぁ。今回はセルティも一緒に食べようよ。なんだかんだ、おせちって食べたことなかっただろ」

取り分ける用の小皿と箸を持って新羅がやってきた。いつの間に振り払っただろうかとセルティが考えている間に、新羅もソファに座る。

『新羅、何をのんきに……』

PDAを差し出したと同時に、新羅からはおせちの仲からいくつか料理を載せた小皿を差し出された。

「あけましておめでとう。早くセルティも座って食べなよ」

笑って言う新羅に、セルティは大人しく受け取った。
同居人の楽しそうな笑顔には勝てないセルティは、大人しく座って、自分が運んできたおせちを食べることにした。
作品名:年越し 作家名:すずしろ