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点滴

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「そんなの見てて楽しい?」

佐助は、やれやれといった声でそう零した。しかし、幸村の視界に佐助の顔は無い。あるのは、佐助の腕と、それにつながる点滴のチューブのみである。

「うむ。」

「旦那は昔っから変なもんが好きだからね〜・・・。」

「うむ。」

佐助の腕は、細い。

男のそれではあるが、程よく筋肉のついて無駄なものは無く、青く血管が浮き出ている色白のものだ。

自分とは少し違っている。

その腕に刺さる針もまた細く、なにか佐助に似ているような気がした。

佐助がなぜこんなものをしているかといえば理由はひとつで、つまりここは病院である。

遡ること数日。簡単に説明すれば、幸村が学校から新型のインフルエンザを貰ってきて家で寝込み、看病のギャラ代わりに佐助がそれを贈呈された。ということである。

幸村はもともと丈夫だったためにそれほど酷くはならず、一日もすると熱は下がって布団でアイスを食べていたのだが、日ごろから不規則な生活を送る佐助は、インフルエンザのお手本のように39度超の高熱を出し、結果的に朝っぱらからこんなところで点滴を受けている。

「佐助、具合はどうだ?」

腕から目を離すことせず聞くと、佐助は咳でがらがらになった声を発した。

「もー・・・最悪。頭痛いし身体痛いし、咳は出るし洟ずるずるだし。ゲロったら旦那が片付けてよね。」

「む・・・・。」

それは遠慮したいところだった。あの臭いはいくら佐助のものといえども耐え切れない。

なので仕方なく現実逃避のために佐助の腕を凝視する。

この腕は、幾度と無く幸村に触れてきた腕。自分より白く、長く、細く、それでいてずっと逞しい。

べつに腕フェチとかそういう類のものではないのだが、佐助のこの血管が浮き出た腕はかっこいいと思う。自分の腕といえば、部活やら何やらで擦り傷と痣が残る色の黒い、健康児のお手本のような腕で、我ながら味気ない。

どうしてこの細くて白いもやしのような佐助の腕が、買い物で買った米やら畳んだ布団やら幸村やらを軽がると持ち上げるのか、不思議でならなかった。

ふと、思考をさえぎるようにして佐助が咳き込む。最初はそのままぼうと聞いていたが、あまりに酷いので心配になって背をさすった。

「佐助、大丈夫か?」

「あ゛―・・・。ダメ。もー死ぬ。」

そういう佐助の顔は本当に死にそうで、その酷い顔色を見て幸村は眉をひそめた。

「何かほしいものはあるか?」

「特に・・・、あ、でもあるかも・・・。」

「なら、これが終わってから・・・、」

と、点滴の残量を確認すべく目をそらし、その量からどのくらい掛かるかを推定して時計に目を移したときだった。

「ねー、旦那。」

「ん・・・?」

呼ばれて振り返るのは人間の性である。事実、それを利用した遊びもあるわけで、尚且つ幸村はそれに引っかかりやすかった。

振り返った瞬間に、唇にかさかさとした感触が触れた。

「―――!!」

声を上げようとした瞬間に今度は顔を固定され、唇が逃避するのを阻止される。

そうして一頻り口の中を舌で這われた後、佐助の口は幸村の口から離れた。

「さ、佐助ぇ!!」

「えー。何よ。」

わざとらしくしらばっくれながら、佐助はまた枕に頭を預けた。顔色が心なしか良くなっているのが悔しい。

「は、破廉恥な・・・!!」

「欲しいものは?って聞いたじゃん。」

何か理屈が違っている気しかしないのだが、佐助に理屈で対抗できるほど幸村は頭が良くない。

ただただ悔しさに顔を真っ赤にするだけだった。

「あー、でもちょっと良くなったかも。旦那のおかげかな?」

「点滴のおかげだ!!」

カーテンで仕切られた小さな世界で、幸村は悔しさに地団太を踏みながらまた佐助の腕に目を戻すのであった。

作品名:点滴 作家名:井ノ中 蛙