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この世界ならふたりきり

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高く高くどこまでも飛び行く白い鳥を窓からぼんやりと眺めていた。今この家には誰もおらず、聞こえるのは風に吹かれ擦れる木々の音や、遠くの車のエンジン音。
いつまでこの平和が続くのだろう…そんなことを思い、Jは自虐的に笑った。今この隠れ家には誰も居ず、皆私用や買出しで開け払っているため一人きりだ。静か過ぎる部屋は逆に居辛く感じられる。軽く溜息を付きながら近くにあったベットに倒れこんだ。おもむろに掛け布団をひっぱり人を抱きしめるように抱く。けどそれは柔らかすぎて、むなしく感じた。


*


買い出しから帰ってきたとき、初めは誰も居ないのだと思った。
珍しいな、と思いつつ買ってきた一週間以上の食べ物(本人にとっては3日にも満たないのだが)を落ちないようテーブルに置き、一旦着替えようかと寝室に向かった。
ドアが開けっ放しになっていて、もしかしたら誰か居るのかと思いながら入るが見当たりはしない。ただの閉め忘れかと思い傍にあったベットに座り込んだ。するとなにやら変な感触が当たった。驚いてすぐさま立ち上がり見るとそれは足だった。その足から順に目線を上げると布団に包まれたJがいた。
「っ…!」
思わず声を出しそうになったが、寸でで止めた。冷静に判断処理が出来ない。とりあえず痛かっただろうかとおどおどと顔の方を見る。布団でその顔が見えない。が、気付いたような様子は無い。しかし、自分は思ってないとはいえ、神とまで崇められたお方の足を踏んでしまった事に激しい罪悪感を抱く。もし普通な立場でもJなのだから代わりはない。
びくびくしながら顔のある上の方へ回った。そうっとそぞき込むように見た。

一瞬、何も考えられなくなった。
泣いていたのだ。
否、涙の跡なのだが。

息を詰めるように近づき、そっとその跡に指でそっと撫でた。撫でたとこだけその跡が崩れ、薄れた。胸が締め付けられるように圧迫される。いろんな感情が入り交じってもうよく分からない。なによりも大切な人の隠れた涙を見たからだろうか。頬を包み、そっと髪を撫で、無防備なその額にそっとキスをした。
何も考えてなかった。
普段の自分なら絶対に出来ないことを、こんな簡単にしてしまっていた。息を吐き、目を瞑り、この心にある靄が無くなることを待った。
「・・・・・・くすぐったいよ」
驚き目を開けると、Jが泣き笑いの顔でこちらを見ていた。
いつもみたいな表情ではない。笑みを絶やさず、裏を読ませない顔ではない。ただそこに居たのは弱弱しく、年相応の表情でこちらを見てくる、いとおしい、恋人だけだった。
「ミハエル君からこんな熱いアプローチ始めただから吃驚したよ」
ケラケラと笑うが、それは小さな強がりに見えた。
「………」
何と言えばいいか、まとまらず黙っていると笑っていたJの顔がしょうがないなぁともいえる顔に変わった。それでも楽しそうに。
「ねえミハエル君・・・」
「なんですか・・・?」
声が若干上擦りながら答える。
音には出さず唇の動きで、Jは言う。
だきしめて
瞬間に。しかし、もしかすると何秒も立っているのかもしれない。
返事をするのを忘れ、気付くと華奢な肩に腕を回し、いつもよりも強く抱きしめていた。
しばらくそのままでいた。どちらとも何も言わずに。
「俺の知らないとこでそんなふうに泣かないで、下さい」なんて、心で思うだけで実際には声に出せなかった。言ったところでどうなるというのだ。
答の見つからない問いで頭の中が埋め尽くされてく。
…やっと逃げてきたのに。
これ以上彼に背負わせることは出来ない。
役に立たない自分に出来る事は数少ないし、今だって彼の涙の理由さえわからない。
もう一度手を伸ばし、先程とは反対側の頬を撫でる。
涙はもう乾いていた。
作品名:この世界ならふたりきり 作家名:東向