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【土沖】傷から発熱した土方と許さない沖田

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ほんとうは自分があれに執着していると知っている。屯所に戻ったら、土方が熱を出していた。つい先日のこと銃で足を撃たれた傷を悪くして、そこから発熱したらしい。

土方が姉の婚約者を斬るための討ち入りで負ったその傷のことをどう思っているかは、こちらにはちっとも分からない。遥かな痛みを伴うものであるかもしれないし、仕事によって負ったいつもの負傷とそう変わらないのかもしれない。起き上がれないくらいの悪意が篭ったその深さを忌々しく思っているかもしれない。ただ、沖田は、明かりを減らして薄暗い部屋で眠る土方を正座で見下ろしながら、ひどい熱を伴ってその体を蝕む深い傷のことをこんな風に考える。


(…………姉上と、俺のために負った傷)


すると、背中をぞっとするような寒気が這い上がるのだ。

俺のことまでそうやって大事にするくらいならその分、俺の分をぜんぶ姉上にあげればよかったのに。そんな風に思ってから冷えた手のひらを暖めるのに土方の手へ指を絡めてみたら、そうっと瞼が開いて少し眉根の歪められた灰色の目がこちらを見た。

その瞬間に、腹の奥底の方でチリッと何かが爆ぜるのだった。正しくは、沖田の髪の毛へなめらかに絡まった線香の香りに土方が気が付いたらしいと分かった瞬間に。土方のそういうところを許さないと思うのに、許さないと思った分だけ土方への執着心が膨れる。そして沖田は、この執着心はよくないものだと分かっている。だからこそ姉が亡くなってしまった今、土方に向けていたあの不意に沸き立ってくる感情を持て余して途方に暮れていた。

遠くの方で夕餉にざわつく声が聞こえてきても、少しの空腹さえ覚えない。沖田はなおも膨れていく執着を押さえ込むために、額へじわりと滲んだ汗を拭ってやりもせず口を開いてみる。


「あんたは、誰かを護るための自己犠牲が過ぎるんだ。…反吐が出らァ」


すると土方は苦しいくせに、仕方のない子供を見るようなやさしいような、そういう柔らかい目をするのだった。その目を見ていると反対にこちらの方が苦しくなって、呼吸さえも出来なくなる錯覚を覚える。それからゆっくりと目を瞑って、熱に掠れた声で言った。


「…それでも、お前は俺を許すなよ」
「……………」


土方はきっと、許せない相手というものがどれだけ人間ひとりの心を埋め尽くすのかを知らない。


熱に浮かされてあの人に許される夢でも見てしまったのだろうか。死んでしまえばいいのに、目を瞑ってそんなことを言うのだからふざけている。心の底から何かしらを思って物を言うのなら、背中を向けなければいいのだ。
人間が、時にはたった一瞥のまなざしだけで人を許せることを知っているくせに。

沖田は分からなかった。
身のうちにあるのが本当は憎しみなどではないことのほかは、何ひとつとして分からなかった。苦しくなって近付けたくちびるが拒まれなかったことに泣きそうになって、だから沖田が土方にしたことよりもキスよりも、もっとひどいことをしてほしいとねだる。世界が割れる。