夏の夜の夢 B
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幾度も見た男の死。
身勝手で、毒々しく。
今まではただ他人であった筈の男。
だから自ら導いてきた数々の死に、いつだって涙は出なかった。彼の生き様が理解できなかったから。――いつもあまりにも満ち足りた顔で去っていくから。
『俺は生きたさ、充分にな。――お前が、生かした』
彼女はしずかな水面に花を放る。ありふれた野の花を集めただけのそれは、手を離した瞬間、風にたやすく散り散りになる。弔いの花。
彼は、女々しい感傷だと吐き捨てるだろう。誰よりも雅やかな暮らしに飽いていた男だ。
しかしそれでいい。彼自身が厭おうと彼ほどに雅であった男を彼女は知らない。
せめてもの手向けだ。せいぜい水底で厭な顔をすればいい。
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