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甘えたい、甘やかしたい

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「ジャーファルさんは、マスルールにばっかり甘い」

酒にすっかり飲まれた態の後輩が、文字通りに唇をとんがらせて言った。
いいとこの出のいい年をした人間がそんな駄々っ子の子どもみたいな顔をするんじゃありません、なんて言いそうになって、いくらシャルルカン相手でもそれはさすがにないか、と思い直す。

「そうですか?」

そんなつもりはないんですけどね、首を傾げるが、シャルルカンはぶうぶうと更に言い募ってくる。
いや、しかしシャルルカンとマスルールが何かしらじゃれ合っていると、年下のマスルールをつい庇ってしまうことは確かだ。
自分は単に、年少である方の味方をしているだけのつもりでいたんだが、もしかしたらそうではないかもしれない、と思わないこともない。
マスルールとは、シャルルカンよりも一緒に過ごした時間が長いのは確かだ。
初めてできた弟分に、戸惑いながらも嬉しくて一生懸命に世話をした。
もしかしたら、そんな過去の繋がりが無意識のうちに行動に表れているのだろうか。
一瞬考え込んだ隙に、シャルルカンは甘い甘いあまい、と、段々更に迫ってくる。
ひく、と、強いアルコールの香りが鼻についた。
すっかりアルコールの匂いまみれになって、モテるためだと普段気を付けているらしい女性好みの香の香りが欠片もしない。
ヤムライハが見たら、だからあんたは中途半端でモテないのよと腕組みでもして見下げてくるところだろうか。
それはそれで、そうなると面倒臭い。
喧嘩するほど仲がいいという言葉の体現のような二人だが、お互いに収まりがつかなくなることはしょっちゅうで、そのたび仲裁に回るのは大抵年長者のジャーファルの役目なのだ。
ちなみに、シンドバッドと言えば、部下の他愛もないその喧嘩すらも愛しいようで、止めもせずに大抵笑って見ているだけだ。

「シャルルカン、飲み過ぎだよ」

「そんなことないですよ、王サマじゃあるまいし」

少し離れたところにいるシンドバッドと言えば、まさにその「王サマじゃあるまいし」状態だ。
両膝には露出の多い衣装を申し訳程度に身に付けた踊り子の女性。
背後から胸のふくらみを強調するかのように押しつけてしなだれかかっているもう一人。
さらに次は自分だと、七海の覇王にふれる機会を虎視眈々と狙っている風の者が数人。
まったく機嫌よく、注がれるままに酒を煽っては笑ってばかりいる彼は、多分おそらく、明日はもう使い物にならないだろう。
しかし、国民の誰もが楽しみにしている宴の主を早々にひっこめる訳にもいかない。
仕方ない。
明日のシンドバッドの執務処理能力はきっぱり諦めることとして、その翌日にはこってりと仕事漬けにしてやろうと頭を切り替えた。
一度、そうと決めてしまえば切り替えが速いのもジャーファルのいいところだな、とは我が王の言である。
主からのありがたい褒め言葉を最大限発揮して、明後日に追い詰めてやればいいだけの話である。

「ジャーファルさん、」

声と共に、ぬっと褐色の顔が視界に割り込んだ。
シンドバッドの情けない姿が遮られて、酒のためか少し潤んで見える緑の瞳が間近に迫った。

「俺の話聞いてます?」

「え? ああ、うん、」

「聞いてない! マスルールにはあんなに甘いのに! 俺の話は聞いてない!」

なんでマスルール、と、いちいち引き合いに出してくる名前に疑問は湧くが、それはひとまず置いておいて、取りあえずこれ以上の酒は止めた方がよさそうである。
酒で醜態を晒すのは、我らが主だけで十分、手一杯なのだ。
手がつけられなくなる前に処置をしておくに限る。
これもシンドバッドと長く付き合ううちに覚えた知恵である。
そうと決めてしまえば、ジャーファルは行動も速い。

「はい、そこまで」

ひょいと手の中の杯を掬い取る。
あぁあ、と不満そうな声が追ってきて、ジャーファルの手を掴み、杯を取り返そうとする。

「マスルールの酒は止めないくせに!」

だから、なんでマスルール。

「あのね、マスルールは酒癖、悪くないでしょう」

シンドバッドの更に向こう、どちらかというと飲むよりも食べる方も好むマスルールは、今日も旺盛な食欲を発揮しているようだ。
そばにモルジアナやアリババたちの姿が見えた。
ああ、あの子たちもちゃんと食べているのかな、と思うと、顔が僅かに綻んだ。
と、

「俺だって。酒、強いです」

またしてもぬっと視界に割り込んでくる顔は、またしても、いや、さっきよりも更にぶうと膨れている。
まるきり酔っぱらいである。
しかも、駄々っ子属性ときた。

「ふうん、どの口がそんなこと言うのかな」

こういうときのジャーファルのにっこり笑顔が何を指すか、普段のシャルルカンならちゃんと読んで判断できるはずだ。
はず、なのだが、

「強いんです!」

完全に酔いの回っている頭では、危機感すら乏しくなってしまったらしい。
こんなことでどうする八人将。
突っ込みたくなるが、シャルルカンが杯を奪おうとする手を避ける方が先だ。

「あ、こら、」

ジャーファルの手首ごと掴んで引き寄せて、杯に口づけようとするので、ジャーファルは反射的に自分の口を杯に近付けた。
ぐい、と中身を煽って飲み干す。
それなりに強いアルコールが喉を通り過ぎると、心地よく焼けつくような感触。
言うほど強くないシャルルカンなら、これは確かに簡単に酔ってしまうだろう。
怒り出すかと思ったのだが、

「……………」

予想に反して、ふにゃりとシャルルカンが笑った。

「………シャル?」

なんでそんなに嬉しそうなの。
そう聞く前に、シャルルカンがふわりと巻きついてきた。
アルコールの匂いばかりかと思ったが、密着した体からはほのかにシャルルカン愛用の香の香りがした。
そうか、これはこれで女性は喜ぶのかもしれない。
触れて初めて分かるそのひとの香り、というのは、まるで自分だけが知り得る特権のようでもある。
しかしそれも意識的にうまくやれば、の話である。
こんなぐだぐだ具合では、女性の方が呆れかえって終わりだ。
まったく、手のかかる。
圧し掛かる体重を何とか支えて、背中をぽんぽんと叩く。

「こら、シャル」

「俺の酒、ジャーファルさんが飲んだ」

言葉面だけ並べて見れば恨みがましい批難かと思えるものだが、声にして聞いてみればその実全く正反対である。

「………なんで喜んでるの?」

「だって俺の酒、ジャーファルさんが飲んだ」

意味が分からない。
しかしまあ、所詮は酔っぱらいだ。
きっとシャルルカン自身だってよく分かっていないのだろう。

「とにかく、もうお酒は終わりにしときなさい」

「はぁい」

素直な返事が聞こえたが、何やら続きをむにゃむにゃと喋っていたシャルルカンが、やがてくうくうと寝息を立て始めた。
そっと体を剥がして顔を覗き見れば、いたく上機嫌に夢の中。

「手がかかるなあ」

これでも、十分に甘やかしているつもりなのに。
と、そんなことを言えばきっとまたむうと膨れた抗議が返ってくるのだろうか?
まったく、手がかかる。
アルコールに赤くなった頬をそっと手の甲で撫でると、むにゃむにゃとはっきりしない声が、ジャーファルの名前を呼んだ。

「じゃー、ぁる、さ」