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すずき さや
すずき さや
novelistID. 2901
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その後の話

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 世良の頬にニキビができた。
 にきびは青春の象徴と言われるが、この場合は青春の象徴ではなく不摂生の結果である。
 原因は世良がバレンタインデー以降、チョコレートを食べるのにいそしんでいるためだった。
 
 バレンタインデーでもらったチョコレートを全部一人で消費するのは意外に難しい。
 高級なチョコレートは確かにおいしいが、ある程度食べてしまうと満足してしまう。カカオは体に良いと言われているが食べる量にも限度がある。
 そう言えば、去年まではさりげない風を装って恋人に「食べたら?」と言って勧めていた。
 困った表情を浮かべて「なんだか、悪いわ」と、一度は遠慮するふりをしながらも嬉しそうに食べていたので、これまでの癖でついうっかり現在の恋人へも「好きなものを食べても良い」と、言ってしまった。
 
 しかし、言葉通りに好きなだけ食べるのはいかがなものか、と堺は一度きつく叱った。
 だが、世良は「証拠隠滅っす」と、堺にとっては意味の分からないことを言ってチョコレートを食べることをやめずにいる。
 どこか小動物的なところがある世良が小さなチョコを頬張っている背中はヒマワリの種をせっせと頬袋に入れるハムスターのように見えてくる。
 その姿が可愛いので許す、と女性に対してならば思ってしまうが、堺は世良のその姿を同じサッカー選手として断じて許すことができない。
 不摂生で余計な脂肪がついて体が重くなる。ポテトチップも感心できないが、チョコレートも感心できない。
 だが、どんなにきつく叱っても「カカオは体にいいっすから!」世良はそう言ってチョコレートを食べ続ける。
 確かにカカオは体に良い。世良の言い分はもっともだが、それにしても食べすぎだ。
 叱っても聞く耳を持たないので仕方なく見えない場所へ隠すのだが、世良は見つけ出してはチョコレートを食べてしまうので手に負えない。気付くとチョコレートの箱を手にしている。
 
 堺は特に物に対する執着心を強く持たないが、世良は人一倍好奇心が強く執着心も強いのだろう。
 そう言えば。堺が一つ一つ送られてきたものを確かめていると隣で座ってじっとその様子を見つめていた。
 堺が受け取るものすべてを見逃すまいと言う執念に満ちた表情だったことを思い出す。
 おそらくこうやって人から応援という形でも異性から好意を寄せられているという事実が世良にとっては受け入れたくない事実かもしれない。その感情を嫉妬と呼ぶのか、やきもちと呼ぶのか堺は分からない。
 同じように世良自身も応援するファンから贈られていると言うのにもかかわらず、堺が受け取ることをよしとせず、わだかまりを抱えてしまう。
 こういう小さなところで躓いてしまう恋人は少し未熟で可愛らしいように感じたが、ものには限度がある。
 
 リビングのソファーで一人黙々とチョコレートを頬張る世良を見てため息をついた。もう、堺が受け取ったチョコレートのほとんどは世良の胃袋に収まっている。
 いい加減にそろそろ食べるのをやめろ、と一喝しようと思い世良の背後に立つと、その気配を察して世良は「悔しいじゃないっすか!」と、堺には分からない心情を訴えて来た。
「おれだって、堺さんにチョコレートあげたかったすよ!」
 世良は先日のバレンタインデーのことを未だにぐずぐずと言っていた。過ぎたことを悔やんでも仕方がない。それに世良からわざわざチョコレートを受け取る必要はないだろうと、堺は思う。
 しかし、世良はイベント事が好きなようでことある毎に何かしたがるので、カレンダーを見ては世良が何かしでかさないかと、それを止めることに苦労する。
 イベント目白押しであるクリスマスや年末年始をどうにかやり過ごしキャンプを迎えたが先日の未だにバレンタインデーについて何か未練を引きずっている。
 
「気持ちだけでいいよ」
 悔しがる世良に向けて堺は努めて優しい声をかけたが、逆効果のようで頬を膨らませて怒ってしまった。
「いつもそればっかり言って!」
「だって、世良からもらう必要ないし」
「おれは欲しかったっすけど!」
 世良のセリフに堺はため息をついた。
 堺はもらうことはあっても送ることはこれまでの人生ではなかったので、世良の期待に応えることができなかったようだ。
 だが、世良もすっかり忘れていたくせに、と思ったがそれを出すと不毛な言い争いになりそうで堺はため息をつく。
「すみませんでした。好きなだけ食べてください」
諦めの境地に入りかけて思わずそう言ってしまった。
「はいっ!」
 嫌味っぽく言ったつもりだったが世良は気しないのか気付かないのか。嬉しそうに笑うと再び黙々とチョコレートを頬張り始める。
 しばらくもりもりと元気よくチョコレートを食べる世良を苦笑交じりに眺めていたが、手にしている箱と乱雑にはがされた包装紙を見て堺は顔色を変えた。
「ああっ!お前、それ……」
「はい?」
 動揺した声を上げた堺を世良は不思議そうに見上げた。
「食っちゃったか」
「はいっ。美味しかったっす!」
「だろうなぁ」
 堺はため息をつくと「おれも食いたかった」と小さくつぶやいた。
「えええー?」
 世良はそう手以外のセリフに驚くと堺は「ははは」と小さく乾いた笑い声を上げた。
「それ、お前の見えないところに隠してあったろ?」
「はぁ。そうっすね」
「そう言うのは察してくれよな」
 堺はそう言うと空き箱を見て大きくため息をついた。
「あの、すみませんでした」
「いいよ。好きなだけ食えって言ったのはおれだから」
 謝る世良に背を向けて堺は肩を落として世良が片付けてしまったチョコレートの空き箱を手に取るともう一度大きくため息をついた。
 
 失敗した。世良は堺の横顔を見てそう思った。
 ごめんなさい、と一瞬言おうとした。しかし、食べたかっただけならば世良の目から隠さずとも素直に言ってくれればいいのにと思う。
 確かに他のチョコレートとは別に隠されていたのを見つけて、もしかするとただ好きなだけではなく送り主の方が重要だったのではないか、と世良は思い面白くない気持ちで食べてしまった。
「あの。なんで一言言ってくれなかったっすか?」
「ん?そうだな。言うのを忘れてた」
「っつか、隠すことないじゃないっすか」
 世良はそういって不満げな顔をした。
「ああ。そうだったな」
 堺は言われて初めて気付いた表情をして「うん。そうだな」と、つぶやいたきり背を向けて黙ってしまった。
 
 やはり、大事な人物からの贈り物なのだろうか。
 世良は自分に背を向けた堺を不安そうに見つめた。

作品名:その後の話 作家名:すずき さや