お兄ちゃんの法則
のちに最悪の形で分かたれたが、イギリスは今とてあのころの自分は間違っていなかったと思う。どこでどう曲がりまちがって、アメリカと今のような関係に陥ってしまったのかは分からないけれど。
さておき急に手許の書類のことを思い出したイギリスは小さくため息を吐いた。アメリカのことだから、今は強情ぶってもすぐに飽きるに違いない。フランスの馬鹿もいなくなったことだし、今は集中して書類仕事に取り組むチャンスだ。
「……お兄ちゃん」
とはいえ勿論不本意なことであったから、不本意を強調しようとなるべく声を低めて言うと、アメリカがおもむろに視線を逸らし、沈黙のあと、
「一週間」
「あ?」
「とっ兎に角今日はもう終わりなんだから一日は短すぎるってイギリスも思うよねだから一週間!一週間に延長!」
「いや、それなら明日一日で」
「反対意見は認めないんだぞ!」
思わぬ、最悪の反応にくらりと目の前が暗くなったのが分かった。
だからイギリスは気づけなかった。アメリカが楽しそう、というよりも焦っていたこと。けれどイギリスがもう言い返せないで唖然としていたのを同意だと解釈して安堵の息を吐いたこと。声も立てずに笑いながら目をきらきら輝かせたこと。なんだかんだがあったとしても、イギリスはアメリカが嬉しそうに目を輝かせるのを見るのがすきだったくせに。
(まあ……たまには好きなようにさせといてやるか)
最終的にはいつもの許してやるか、の精神に落ち着いた。それこそ「兄らしい」気持ちになって、イギリスは鷹揚に頷いてみる。アメリカの顔は見られなかった。