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サヲトメ陸人
サヲトメ陸人
novelistID. 3564
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distance・less

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「菊!」

「あ、アーサーさん」

「遅くなって悪かった」

「大丈夫です。私も少し前に来たところですから」


 待ち合わせ場所にしていた下駄箱に 二人以外に生徒の姿はない

 靴を履き替えて外に出るなり 二人は口を揃えて呟いた


「「あ、雨・・・」」










 distance・less










「まいったな・・・俺、傘持ってねぇや」

「傘、持ってきました」


 そう言って本田は 鞄から紺色の折りたたみ傘を取り出した


「あの・・・一緒に」

「あ、あぁ・・・さんきゅうな、菊」


 雨空に向かって広げられたその傘は 当然のことながら小さかった


「すいません、長い傘持ってくればよかったですね」

「いや、あるだけで十分だから。あ・・・俺、持つよ」

「あ・・・すいません」


 男二人 窮屈そうに一つの傘で歩きだす

 地面から跳ね上げる雨粒が 二人の制服の裾を濡らしていく


「・・・」

「・・・」


 普段なら弾むはずの会話も 今日ばかりは二人とも口数が減っていた

 互いの距離が近すぎて 緊張してしまっているから


「雨・・・ひどくなってきたな」

「えぇ」


 傘をうつ雨音が大きくなって 視界も少し霞んできたように感じる


「菊・・・」

「はい」

「濡れるから・・・も、もっとこっちに、来いよ」

「は、はい・・・ありがとう、ございます」


 何とか紡ぎ出した言葉 裏返りそうになるのを必死にこらえて

 寄り添ってきた一回り小柄な本田に カークランドの心臓はすごい勢いで走りだす

 
「生徒会のお仕事は、どうですか?」

「あぁ、いつも通り・・・フランシスは相変わらずうるせぇけど」

「また喧嘩、したんですか?」

「今日はしてねぇよ」

「ならよかったです」


 喧嘩は駄目ですよ そう言って本田は微笑んだ

 その横顔にドキリとしたカークランドは慌てて前へと向き直った


「アーサーさん」

「ん?」

「もうちょっと、傘をそちらへ。肩が・・・濡れてます」


 無意識のうちに本田のほうへ傾けていたのか

 ふと見るとカークランドの肩は雨にすっかり濡れていて シャツが透けている


「すいません、もっと早く気付けば・・・」

「いや・・・これ、お前の傘なんだから、その、俺は大丈夫だから・・・」


 肩が濡れてしまったことなんかどうでもよかった

 傘を傾けようと柄に伸ばされた本田の指先が 自分の手に触れている

 カークランドの頭の中は もうそのことでいっぱいになっていた


「菊・・・」


 見上げた本田の頬が赤いのは気のせいだろうか

 周りには誰もいない 

 キスしたい 唐突にそう思ったカークランドの視線は本田のそれとぶつかった

 どちらともなく目を閉じて唇を差し出そうとした その時


「わっ!」


 けたたましい音が傘の上で鳴り 足元からは幾重にも冷たい飛沫が上がってきた

 先ほどとは比べものにならない激しい雨 二人のぎこちないキスはあっけなく遮られることになった


「雨、すごいことになってきたな」

「急いで帰りましょう」


 降りしきる雨の中 ろくに会話もしないまま 二人は足早に進む

 数分後 本田の家に到着する頃には 雨はほとんどやんでいた


「何だったんだ、さっきの大雨」

「本当に、何だったんでしょう」


 太陽こそ見えないものの すっかりおとなしくなった空を見上げて思わず溜息がもれた


「傘、ありがとな」

「あの、アーサーさんっ・・・」

「ん?」


 帰ろうとするカークランドのブレザーの裾を本田が掴む


「その・・・お茶でもいかかですか?制服も・・・乾かしていただけたら」

「え・・・いいの、か?」

「えぇ、どうぞ」


 本田の言葉に甘えてカークランドは家に上がらせてもらうことにした

 
「今、タオルとお茶持ってきますから」


 そう言って本田は奥の部屋へと姿を消した

 自分の家とはまるで雰囲気が違う 初めて入った恋人の家

 無意識に思い浮かべた想像を慌てて打ち消して カークランドは一人で頬を赤くする


「アーサーさん、どうぞ」


 いつの間にか戻ってきた本田の手からタオルから受取り 濡れた部分を拭いた


「制服・・・」

「あ、ズボンの裾ひでぇな」

「あの・・・私の服では、アーサーさんには・・・」

「ちょっと小さい、な。いいって、すぐ乾くだろ」

「すいません」

「それより菊、着替えてこいよ。お前も濡れただろうし」

「・・・でも」

「俺はいいから。風邪ひくぞ」

「ではお言葉に甘えさせていただきます」


 ペコリと頭を下げて本田は再び奥の部屋へと姿を消す

 その姿を目で追いながら カークランドは出された日本茶に口をつけた







 ほどなくしてもどった本田は 濃緑色の着物に着替えていた

 その手には綺麗にたたまれた真っ白なバスタオルがあった


「アーサーさん、これ、どうぞ」

「あ、さんきゅ・・・」


 バスタオルを肩から羽織るカークランド

 大丈夫だとはいったものの 濡れた肩やら背中はやはり寒くて

 
「寒いですか?もう1枚、タオル持ってきますね」


 寒さに体を丸めたカークランドに気づいた本田は そう言って立ち上がろうとした


「いい」

「で、でも・・・風邪、ひいたら大変ですから」

「菊が・・・その、、、えっと・・・」

「?」


 きょとんと首をかしげた本田の腕を カークランドは勢いよく引っ張る

 驚く本田をよそに カークランドはそのまま彼を自分の腕で抱きとめた


「ア・・・」

「だからっ・・・こうすれば、温かい・・・かなって」


 触れ合う体と伝わる体温に 二人の頬が赤く染まっていく


「そう、ですね・・・」

「菊・・・」


 もう邪魔な雨は降ってこない

 ぶつかった互いの視線 その瞳はほどなくして閉じられて 二人の唇が重なった


「ん・・・」


 本田を抱くカークランドの腕に力がこもる

 口づけが深くなるほど 二人の距離は近くなって

 いつのまにか本田の細い腕はカークランドの背中を抱いていた


「っ・・・・」


 ちゅっと音をたてて二人の唇が離れた

 目を合わせるのが恥ずかしくて カークランドは本田を抱きしめた


「菊、わりぃ・・・その、初めてなのに・・・軽くするつもり、だったんだけど、な」

「・・・いい、ですよ」

「ごめん、な」

「大丈夫です・・・ただ、その・・・」 

「ん?」

「今すごく恥ずかしいので・・・もうしばらくこのままでもいいですか」


 本田のその言葉に カークランドは強く抱きしめなおして答えた




 二人の耳に届くのは時計の秒針がうつ音と 互いの息遣いだけ
 
 いつの間にか外は暗くなっていて 静かにまた雨が降り始めていた 

 

 
作品名:distance・less 作家名:サヲトメ陸人