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サヲトメ陸人
サヲトメ陸人
novelistID. 3564
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I am a grabber.

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 欲しいものは 数えきれないほどある

 そう、例えば 貴方へ手を伸ばす勇気 

















 [ I am a grabber. ]













 




「ニホン、他に買い物は?」

「あと食料品売り場、寄ってもいいですか?」

「いいよ」

「すいません、買い物付き合わせてしまって・・・」

「別にダイジョウブ」


 大型ショッピングモールが新しくできたから行かないか

 ギリシャさんからそんなお誘いをもらったのは一昨日のこと

 なかなかこのようなところへ来ないせいか 私は柄にもなくはしゃいでしまって

 気づいたら色々と買い物をしてしまいました

 
「その、荷物まで持たせてしまって…」

「彼氏が荷物持つのは当たり前でしょ?」

「いえ・・・そんな・・・」

「気にしないで」


 ギリシャさんと付き合い始めたのは1か月ほど前からで

 正直、まだ慣れません


「夕食の買い物?」

「えぇ。ご飯、食べていきますよね?」

「うん」

「何か食べたいもの、あります?」

「ニホンがつくるものなら何でもいい」


 カゴをのせたカートを押しながら 食料品売り場を並んで歩きます

 ちらりと盗み見たギリシャさんは 何を考えているのかわかりません

 ただその彫りの深い顔立ちに 私は一人でドキッとしてしまいます


「じゃぁ、魚でも焼きましょうか」

「うん」

「あとお豆腐は冷奴にして…お味噌汁は冷蔵庫に大根が残っていますから、それで・・・」

「うん」

「あ、里芋が安いですから煮物にでもしましょうか」

「うん・・・」

「ご飯はありますし・・・キュウリの浅漬けでもつくって・・・」

「ねぇ、ニホン」

「はい?何か食べたいものがあれば・・・」

「あれ、この間の・・・」

「この間の・・・?」

「白い、丸いの」

「・・・あ、お饅頭ですね」


 少し前 ギリシャさんがうちにきたときに手作りのお饅頭を出したことがあって

 ギリシャさんは不思議そうな顔をして食べていたのですが

 どうやら気にいってくれていたみたいですね


「今日はちょっとつくれないので、あちらのお店で買うのでもいいですか?」

「・・・うん」


 ちょっと残念そうなギリシャさん

 
「今度いらしたとき、つくりますね」

「楽しみにしてる」

 
 お会計を済ませて 荷物をビニール袋へと詰めて カートとかごを片付けて

 持つよとギリシャさんは言ってくれましたが さすがに申し訳ないので

 
「お饅頭、買って帰りましょう」


 ギリシャさんの右手には 私が買ったもの

 私の左手には先ほど買った夕食のおかずとお饅頭




 手を繋ぎたくて空けた右手を 伸ばす勇気がない私





 駐車場に向かうエスカレーターに 私たち以外に人影はないというのに


「駐車場、何階でしたっけ?」

「・・・4階」

「じゃぁもう1階上がらないとですね」


 目の前の手を 私より遙かに大きな手を握りたい

 少しだけ指先を上に向けたものの すぐにためらってひっこめる


「ニホン」


 名前を呼ばれて顔を上げると ギリシャさんが私を見ていて
 
 ふと視線をもう少し下に向けると そこには左手が差し出されていて


「あ・・・」

「今、誰もいないけど・・・だめ?」


 首を傾げるギリシャさんに 私は首を横に振って

 差し出された大きな左手の指先に そっと自分の右手を重ねる


「ありがとうございます」

「どういたしまして・・・?」


 握ってくれた貴方の手の大きさに そこから伝わる体温に

 どうしようもなく貴方のことが愛しくなるのに

 私はそれを 言葉にして伝えられない












 
 あぁ この気持ちを伝える勇気が欲しい


 全てを手に入れられないことはわかっている

 けれどせめて一つ手に入れてから また一つ願えばいいというのに

 
 私は何て 欲張りな人間なんだろう


  
作品名:I am a grabber. 作家名:サヲトメ陸人