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月の出を待って 前編

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「よし、これで少しはマシだろう。・・・・・あぁ、完全に日が落ちてしまったな。今日はこのままここで野宿するしかないか、お互いに・・・・。っと言うか、元々君は野宿生活者だったな」

私はそう言いながら狼の毛並みを撫でてみる。
思いのほか柔らかな手触りにうっとりとしてしまい、ついつい撫で続けてしまった。
しかし、はたと気付く。
野生の狼の毛並みがこんなにしなやかでいるものだろうか・・・と。

昔、近所の家が犬を飼っていたのだが、あまりに劣悪な飼育の仕方に行政から刑罰が下された事があった。
その時の犬の毛並みは、べっとりと汚れていて臭かった覚えがある。
それなのに、この野生のはずの狼の毛並みはさらりとしていて、こころなしか良い香りもしている。

「君は狼じゃなくて、どこかの飼い犬ではないかな?恋を求めて家を出たは良いが迷ってしまい、私と同じく足を踏み外して現在に至る。違うかい?」
私は冗談半分で彼に言ってみたのだが、これはご機嫌を損ねたらしく、彼の牙が脅すように剥かれた。

「あはは。すまない。冗談だよ。それにしてもお腹が空かないかい?空腹になるとイラつくから、君もそうだろう?少し待ってくれ。非常食もこの中に入っているから・・・」
私は降参と言うように彼に両手を上げて見せると、再びリュックの中を探ってみる。
出てきたのは板チョコが一枚に栄養補助食品のシリアルバーが3本、水を入れるだけで出来る五目御飯のパックに缶入りのパン。あとはペットボトルの水が二本と気に入りのブランデーを入れた小瓶。

「意外とレパートリーが豊富だろう?だが、君にはチョコレートは禁忌だね。だからこれは私のエネルギー源にして、君にはシリアルバーを進呈しよう。兵役を経験させられた時には意味がないと思ったものだが、こうしてみると満更無駄でもなかったと言う事か・・・」

後半は独り言のようになったしまったが、彼は興味深そうに耳を傾けて聞いてくれているようで、心なしか嬉しくなっている自分に気付く。

「さあ、5つ星ホテルのディナーとはいかないまでも、空腹感からは解放されると思うよ。召し上がれ」
私はそういうと、シリアルバーのパッケージを破いて彼の前に置こうとした。
が、バーが地面に付く前に、彼の口がバーを銜えるとバリバリと食べだした。私の指には牙がかすりもしない。

“やはり、人に馴れている感じがある。何処かで飼われていたのは間違いないな。だが、この下の集落でこんな狼犬を飼う様な屋敷があったかな? 随分と身奇麗に手入れをされているし・・・・”

私は思考にふけりながら、洋酒と一緒にチョコを囓った。
食道から胃を酒がじわりと焼く。
と同時に、久しぶりのハードな山歩きが身体を疲労させていたらしい。
酒のまわりが常より早いのを自覚する。

「どうやら、私は酷く疲れているらしい。失礼して横にならせていただくよ。だが、頼むから寝ている間に私の手や足を食べないでくれたまえ。一飯の恩義ってものがあるだろう?」

私はそう言ってから、リュックから温泉で使おうと思っていたバスタオルを出すと地面に敷き、その上にごろりと身体を横たえた。

意外と地面が暖かい。

“温泉があるくらいなんだ。地熱があるのだな。私は運が良い”

一人で納得し仰向けになると、見上げた夜空に息をのんだ。
山の清浄な空気が、満天の星空をプレゼントしてくれている。

“アンラッキーな事ばかりじゃないな。こんな夜空は都会では味わえない。自然に抱かれて眠るのも悪くないな”

私はそう思った途端、睡魔に身体を明け渡していた。

2009/03/30
作品名:月の出を待って 前編 作家名:まお