保健室でのできごと
一人は数学教師、折原臨也。そしてもう一人は体育教師の平和島静雄だ。
受け持つ教科を見ていると、特に接点はないようだが、二人は高校生の時からの幼馴染であり、しかも犬猿の仲という言葉では収まりきらないくらいに仲が悪かった。
そのせいでこの学園では毎日のようにこの二人によってバトルが繰り広がられている。
そして今日も・・・
「また怪我したんですか?」
そう言ってため息をついた帝人は少し怒っているようだった。
いつものごとく臨也と喧嘩した俺は、体のそこかしこにできた怪我を手当てしてもらいにきていた。
大した怪我ではないが、以前どんな小さな怪我でも見せにくるようにとの帝人命令が出たので渋々といった感じでここにくる。
といっても、帝人の優しく腕や足の怪我の手当てをしてもらう心地よさや一緒にいると心が和んだりするのが結構気に入っていて、そういう下心があって怪我をしているというのも一つの理由である。
現に今も腕に包帯を巻く帝人の手付きは怒っているのとは裏腹にとても優しかった。
「帝人、怒っているのか?」
「ここは学校なんですから竜ヶ峰先生って呼んでください。」
包帯を巻きながら突っぱねるようにして答えるその声で帝人が俺が思っているよりも怒っているのに気付く。
どう話を続ければいいのかも分からず、しばらく二人を沈黙が包んだ。
その間にも帝人は手際良く俺の怪我を治療していった。
「さっきのですけど・・・」
さっき、というのがなんのことか分からず帝人を見ると、戸惑ったように視線を彷徨わせている帝人がいた。
「別に怒ってるわけじゃないんです。ただ、こうやって毎日怪我して来るのを見るのはちょっと辛いんですよ。」
わざと怪我をしている節があるためちょっとした罪悪感を持ったが、表情には出さず、なんでもないように笑って見せた。
「あー・・・悪いな。そうやって人の怪我とか病気の心配すんのが養護教諭の仕事だしな。」
俺がそう言うと、帝人はぶんぶんと頭を振った。
「そうじゃないんです。」
帝人は俺の頬の傷に絆創膏を張りながら顔を近づけた。
「俺は、養護教諭としてじゃなくて竜ヶ峰帝人っていう一人の人間として先生を心配してるんですよ。」
呆気にとられている俺に帝人は背を向けた。
「分かったらその、これからはもっと自分を大切にしてくださいね・・・静雄さん。」
耳まで赤くして言われた言葉と名前で呼ばれたことが嬉しくて、俺は思わず後ろから帝人に抱きついた。
「でもまぁ、静雄さんが怪我をしたら何回だって手当てしますけど。」
「じゃあ家帰っても包帯とか巻いてくれんのか?」
ちょっとした悪戯心で聞いてみると、より一層耳を赤くして考えておきます、と小さな声で帝人は答えた。
おまけ
「よーし、授業始めるぞー。」
その後の授業、いつになく上機嫌な調子で授業を始めた静雄に何人かの生徒がヒソヒソと話し始める。
「ちょっと、今日の平和島先生優しすぎない?」
「てか機嫌よすぎだよね。」
「授業前に折原先生と喧嘩してたのに、喧嘩する前より上機嫌じゃん。」
「おいおい、いつもの平和島先生よりこっちの方が怖えーよ・・・」
そんな生徒達の声も耳に入らなかったのか、授業の間、静雄は終始機嫌がよく、いつも以上に生徒達にプレッシャーをかけていたのは言うまでも無い。