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グラスハート

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人よりもずば抜けた強みが何かある訳でもなければ、この先やっていける自信も無かった。本人はひたすらにそう思っていたらしかった。
 そうらしい、と曖昧な言い方をしているのは、本人がそう言葉にしていった訳ではないから。それならば何故分かるのかと言えば、態度にそれがありありと出ているから。
(…誰だ?)
 グラウンドから聞こえてきた音に、緑川はそちらへと視線を投げた。こんな遅い時間に何の音だ。そう思ったが、視線の先は薄暗くて良く分からない。明るいクラブハウスから出てきたばかりだから、目が暗さに慣れていないのだ。
 フェンスまで近付くと、その頃にはようやく目が慣れてきた。するとその先に居たのは、一人の男。男というにはまだ余りにも若い。まだ二十歳という年齢もであるが、小柄であり、そしてまた顔は童顔であるので、まだ学生と言われても疑われないだろう彼。
「椿、か?」
 緑川が声をかけると、グラウンドに立っていた青年がこちらをくるりと振り向く。その瞬間の彼の顔は、酷く驚いていた。
「ドリさんっ」
 人の姿を見て、何をそんなに驚くのかと思った。いつもびくびくしている彼のこと。仕方が無いと言えばそれまでではあるが。
 彼の表情に勝手に感傷にひたっていたが、そんな感情も直ぐに潰えた。何故ならば、彼が笑っていたからだ。
「自主練か?」
「えーと、はい、まあ」
 言葉数の少ない緑川と、口下手である椿。二人で居ると余りまともな会話ならないのは、ETUでは有名な話だ。
 口数は少ない、だが緑川は椿を可愛いと思っている。だからこそ何も言わなくとも、彼の前では笑うのだ。
「ど、ドリさん? どうかしたんスか?」
「お前はえらいな」
 笑ったと思えば、椿の頭を大きな手で撫でた。初めはそれに椿もびくりと体を震わせたが、緑川の顔を見ると彼もまた笑った。
「それだけ練習してるんなら、少しでも自信を持てば良い」
「…はい?」


 椿はいつもびくびくしている。だが緑川の手に触れると、その震えが止まるのだ。今だって、緑川の手の下でじっとしている。彼が震えないなど珍しい。
「椿? どうした?」
「いやあの、」
 撫でられたままで椿が顔を上げると、彼の顔は最近では見た覚えがない程、晴れやかな笑顔であった。
「ドリさん、優しいスよね!」
「…え?」
 何をどうなってそうなったのか。ただ撫でただけだろうと、緑川はそう思ったけれど、口にはしなかった。椿の思考は緑川には分からない。彼は言葉が足りないので説明でもしてくれれば良かったが、それも無理な話だった。恐らく上手く説明出来ないだろう。
「まあ、お前が良いならそれで構わないが」
「ウっス」
 もう一度撫でると、更に椿が笑った。いつもこの笑顔のままで居てくれれば良いのにと、緑川はそんなことをぼんやりと思った。
「お前は、いつもそのままで居れば良いのにな」
「…え?何スか?」
「笑ったままで居た方が、可愛いって、そう言ったんだよ」
作品名:グラスハート 作家名:とうじ