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未来予想図

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さっきから胸がズキズキと痛む。体調が悪いわけではない。むしろ家を出た時は好調だった。なのに今は立っているだけで、というより名取さんが女性と話しているのを見るたびに痛むような気がする。久しぶりに旅行でもしようか、と誘われたのがつい最近のことで、それからすぐに休暇を取ったらしい名取さんとバスや電車を乗り継ぎ、やってきたのだが、予約した旅館の場所が分からず、とりあえず人に尋ねてみることにし、現在に至る。にこにこと微笑みながら女性に道を尋ねる名取さんを見てまた胸が痛む。恋人になる前は何も感じなかったのに、これがやきもちとかいう感情だろうか、と人事のように考える。今まで親戚の家をたらい回しにされ、家族愛すら知ることの無かった自分が恋愛に関するこういった感情を知るはずがないのだから仕方がない。

(これが初恋だし・・・)

言い訳のように胸の中で呟いた言葉に少し頬が熱くなった。
「お待たせ。おや、どうかしたの?」
名取さんに赤くなっているであろう自分の顔を見られたくなくて顔を伏せ、何でもないです。と小さく呟いた。すると、名取さんは少し残念そうに肩を落とした。
「なんだ、やきもちやいてくれてるのかと思ったのに。」
「やきもちなんてやきませんよ。」
といいつつも本当はやいていたため、それ以上言葉を続けるのは気が引けた。
「私はいつもやいているよ。」
え、と名取さんを見ると、照れた素振りも見せず、穏やかに笑って言う。
「夏目はとても魅力的なんだよ。だから人間もあやかしも男女問わず引き付けられる。」
そう言って名取さんはそっと俺の頬に触れる。
「だから私はいつも気が気でならないんだよ。」
名取さんは微笑んでいたが、寂しそうな目をしていた。俺は頬に添えられた名取さんの手をそっと握る。
「えっとその・・・ほんとはやきもち、ちょっとだけやきました。」
最後の方は照れくさくて俯いてしまったが、名取さんが嬉しそうに微笑んでいるのがなんとなく分かった。
「ありがとう、夏目。」
名取さんはそう言ってさりげなく俺の手を握った。少し驚いたが、俺はその手をそっと握り返した。一瞬だけ視線を交わすと、ゆっくりと歩き出した。
「旅館の場所、分かりましたか?」
「ああ、この先を真っ直ぐだって、ちょっと遠いらしいんだけど大丈夫かい?」
「大丈夫です。名取さんと一緒ですから。」
「あー・・・そういう可愛いこと言わないでほしいな。」
名取さんは困ったように笑う。俺は首を傾げた。
「何でですか?」
そう疑問をそのまま口に出すと、名取さんは俺の肩に頭を乗せた。
「キス、したくなるから。」
驚いてしばらく何も言えなかったが、意を決して言う。
「・・・いいですよ。名取さんなら。」
名取さんは頭を上げて俺を見た。
「いいの?」
そう聞いてくる名取さんが小さな子供のようで俺は思わず微笑んで頷いた。
「それじゃあお言葉に甘えて。」
名取さんはゆっくり顔を近づけると、そっと触れるだけのキスをした。唇が離れて間近で目が合うと、嬉しさと気恥ずかしさが入り交じった変な気持ちになって二人で少しだけ笑った。
「そういえば、こうやって旅行するのはまずかったかな。」
「え、何でですか?」
「だって、こういうのを婚前旅行っていうんじゃない?」
いたずらっぽく笑って言う名取さんに思わず吹き出してしまった。
「男同士じゃ結婚できませんよ。」
「でもいつかは夏目をもらうわけだし。あ、今度藤原夫妻にも挨拶しなくちゃね。息子さんを僕にくださいって。」
そんな名取さんの未来予想図に耳を傾けながら想像してみる。あの二人は同じ男である名取さんを好きになった俺を嫌うだろうか。いや、あの二人はきっと驚いて、でも拒絶しないできっと幸せを願ってくれるだろう。そんな風に思える自分はきっと今とても幸せだからなんだな、と名取さんの横顔をそっと見上げて微笑んだ。
作品名:未来予想図 作家名:にょにょ