花束
「何かしら相馬君」
「これ、よかったら貰ってくれないかな? 人助けだと思ってさ」
「これって……」
平日の昼間の事。高校生の子達はまだ学校で葵ちゃんも非番で、スタッフは私と杏子さんとパートのおばさま達。
そこに出勤してきた相馬君は私を見つけるとある物を差し出してきた。とても綺麗で、でも何か事情があるような、とある物を。
「そう、花束だね」
「え、あの、でもこれは」
「いやいや、申し訳ないけど轟さんにプレゼントする為に持ってきたわけじゃなくてね」
「じゃあどうして?」
「突っ返されちゃったんだ、その花束。具体的には俺が押し付けようとしただけなんだけれど」
いつも笑みを絶やさない印象の相馬君は寂しそうに困った笑顔を繕いながら続けた。
「葵ちゃんにあげるのは……?」
「うーん、出来れば山田さんじゃなくて第三者の誰かがいいかな。妹とか家族とかそういうのは今は……ね?」
普段、滅多に自分を晒け出さない相馬君の何かが垣間見えたような気がして、見てはいけないものを見てしまった時の驚きより罪悪感が勝って胸の辺りがチクリとしてしまうのは臆病な性格のせいなのかもしれない。
「貰っていいのかしら?」
「いいよいいよ。何なら俺が轟さんにあげた事は伏せてさ、佐藤君にプレゼントしちゃえばいいんじゃないかな?」
男だって花束を貰ったら嬉しいよ、佐藤君が轟さんに貰えるなら人一倍だと残して更衣室に行ってしまった。
私の腕の中には所在無さ気な面持ちの、けれど人を笑顔にする小さな幸せを束ねて出来た花束。
どれもみんな綺麗な色とりどりで顔を埋めて匂いをかいでみると、子供の頃に杏子さん達と遊んだ河原や公園の草木や太陽や土の懐かしい思い出が連想された。
そうだ、これを佐藤君にプレゼントする時はたった今感じた気持ちを伝えてみよう。
そして杏子さんの事はもちろん、美味しい賄い御飯をいつもありがとう、面白い時代劇のテレビを見たわ、陽平さんと小鳥遊君のお姉さんって結婚しそうなくらい仲が良いわね、他にもたくさん。
毎日の色々な事、他愛のない事だって佐藤君に教えたいし知って欲しい。
あんな事もこんな事も、相馬君の様子が少し違う事もそれで勝手に怯えて痛んだ私の心も、全部を話したいの。
分かち合いたい人がいる幸せ、それが佐藤君だという幸せ、別の事を考えていてもいずれ最後は佐藤君に連想されていく幸せ、全部を話したいの!