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【APH】どんぐりのせくらべ。【ルーギル】

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 やっぱ悔しいもんだな、と呟いた兄に対して、何がだ? と問いかけるのは別に不自然なことではないとルートヴィヒは思う。
 けれどこちらには聞こえていないと思い込んでいたらしい兄は見るからに動揺し、びくっ、と大げさなまでに体を跳ね上げ、手に持っていた何かをさっとルートヴィヒの死角に隠す。何か柔らかめの黒い物だった気がするが、それがなんだったのかはっきりと視認できず、ルートヴィヒは僅かに顔をしかめる。

「兄さん?」
「い、いや別になんでもねえ!」
「しかし今何かを隠しただろう。それに悔しいだなんてただごとじゃないと思うんだが」
「ルッツには関係ねえことだって! 悔しいのは俺の話だから、な!?」

 これだけ動揺されていれば自分に関係があろうとなかろうと、人にあまり話したくないようである事は確かだ。

「俺に関係がないとしても、だ。隠し事は良くないと俺に教えたのは兄さんだろう」

 お陰で人に話せないような特殊な性癖に芽生えた当初、しつけ通りに包み隠さず話してしまったせいで、兄は己の性癖を熟知してしまっている。まあ、お陰で変な諍いもなく済んでいるのだから、良いと言えばいいのだろうが。
 しかし、これとそれでは話が別だろう。そもそも人には隠さない事を強要(というと語弊があるが一番近い表現ではあるだろう)しておいて、本人自体はどちらかと言えば秘密主義なのだ。毎日欠かさず書いている日記さえ、見せてもらったことがあるのは最初だけ、それもほんの数ページ分だ。

「……兄さん」
「脅したって口は割らねえからな! 今更お前の脅し程度に屈する俺様じゃねえぜ?」

 もちろんそれはルートヴィヒとてよく分かっている。だからこそルートヴィヒが次にとる手段は。

「実力行使のみだ」
「うぇ!? ちょ、ぎゃっ……ヴェスッ、うわっ、ぎゃっ」
「色気のない悲鳴を上げてくれるな。それから抵抗するんじゃない」
「色気を求めんな色気を! でもって抵抗する、にっ、決まって、んだろうが!」

 兄が後ろに隠した黒い物体を掴み上げようとすれば、よほど見られたくない物なのか兄は必死で抵抗する。けれど一昔前ならいざ知らず、以前より痩せ衰えた兄は最近でこそ筋力が多少戻った物の、ずっと鍛え続けているルートヴィヒには敵わない。
 あっけなく両腕を押さえつけられ、それでももがいて抵抗しようとする兄の後ろからルートヴィヒが引っ張り出したそれは、馴染みの深い黒い布だった。布というよりは──

「……俺のタンクトップ?」

 なんでこんなものを見ながら悔しいなどと言っていたのだろうか。というより、やはり自分に関係のあることだったんじゃないか、と思わずルートヴィヒが兄を睨みつければ、気まずそうにギルベルトは視線を逸らす。

「……説明はしてもらえるんだろうな?」
「あー……やっぱ、しなきゃダメ、だよなぁ。この場合」

 だからヤだったんだけど、と拗ねたように唇を尖らせつつ、それでもギルベルトは口を開く。

「ほら、お前さ、すっげー立派に、ムキムキになったろ?」
「立派なのはムキムキだけじゃない、と言いたいところだが、まあ……そうだな」
「背も俺より高くなったし。力だって単純な力比べじゃお前のが強いだろ」
「そうだな。流石に兄さんが上方だった場合は負けるだろうが」
「……それがさ、誇らしいのに、やっぱ悔しいなと思っちまってよ」
「……悔しい、のか」

 妬ましい、ってとは違うんだけどよ、とギルベルトは苦笑しつつ、ルートヴィヒの頭をくしゃりと撫でる。

「嬉しいんだよ。お前が立派に、元気に、こんな強くなって。でも、俺はできるならいつまでもお前の見上げる場所にいて、目指すべき物であってやりたかったのにな、と思うと……最盛期より衰えた体が悔しいんだ。ほら、お前のタンクトップと俺のタンクトップじゃこんなにサイズが違うだろ」

 こんなに小さくちゃ胸を張って目標にはなってやれねえよなあ、と笑う兄の頬をぱちんっと手の平で挟み込めば、ぱちり、と驚いたようにギルベルトは瞬きをする。

「……あなたの背中は、あなたの心は、俺にとってはいつまでも目標で……追いつけないくらい、大きいものなんだ」
「……ルツ」
「実際の力がどうだとか、体格がどうだとか、関係はないだろう。口にしなくてもあなたは俺の考えを読み取ってしまえる。でも、俺はまだ口にしてもらわなければあなたの気持ちを理解できない事だって多い。……俺は、いまでもあなたのように強くありたいと、ずっとそう思っているんだ」

 背を追い越して、体格を追い越して、力で勝って。
 何かが変わると思っていたかったのは、おそらく自分の方だ。それをルートヴィヒは知っている。
 少しでも追いついたと、隣で笑う資格を得たのだと、少しでもそう思える自信をずっと欲しがっていた。
 まだ全然追いついた気がしないのに、と思わず泣き言を言えば、ぐっと引き寄せられてそのまま頭を抱え込まれる。

「……大きくなったよなぁ、ホント」

 昔のお前は分かりやすかったのにな、と苦笑する兄に、今はあなたの方がきっと分かりやすい、と弟は笑いかけた。
 こうして体格を比べて小さなケンカを出来るのも、隣にあるからこそなのだと、二人は知っている。