ドミノ
臨也さんを見ているとイライラしてくる。
別に見た途端に自販機やゴミ箱を投げつけたくなる訳ではないし嫌いな訳でもない。
「帝人くん」
と気安く、まるで何年来の親友かのように声をかけてくるだけで何かイライラに似た感情が湧いてくる。
さらに声をかけてきたから話を聞けば「シズちゃんがさぁ……」と毎回静雄さんのことだ。
僕じゃなくたっていいじゃないか、そう言えば「俺のこと嫌い?」と弱腰で聞いてくる。
「別に……嫌いじゃないですよ」
僕がそう、愛想笑いを交えて言えば「よかった」と言って笑う。
綺麗な顔が綺麗に歪む。そんな臨也さんの顔に肩にかけた鞄をぶつけてやりたいと思いながら「じゃあ」と言って別れる。
ことあるごとに好きだと言われたら勘違いしそうだ。
彼が好きなのは観察対象としての僕なんだ。
そう、僕が彼を嫌いにならないのも観察対象として見ているから。
彼はいずれ僕に興味を無くすだろう、僕はどうだろうか……
「帝人くん」
「はい」
「ご飯食べにいこう」「それとも映画?」「買い物でもいいよ!」
「結構です」
イライラしてくる。
きっと彼は興味を抱いた人間にはこうして釣り餌をぶら下げては近くにおいて観察をしていたんだ。
観察できないとわかればいつもの「嫌い?」「別に嫌いじゃないです」の応酬である。
「じゃあ行こうよ!」
「結構ですよ」
「今日は俺の誕生日だしいいじゃないか! ね?」
初耳だ。
それに誕生日とかで僕が釣れちゃうと思ってる彼も面白い。
よし乗った。
「……仕方ないですね…いいですよ」
そういうと満面の笑みで僕を見て手を握ってくる。
これは、少し、おかしい。
僕を観察対象として見てるはずなのに、そう感じられない。あたかも彼の、臨也さんの本心が僕に露にされているようだ。
これじゃぁ観察のしあいっこという構図が崩れてしまう……なんて自惚れか。
彼が本気で好きだと僕に伝えていた、等という仮定はよくない。
嘘か本当かも知らない恥が襲うから考えてはならない。
「臨也さん」
「なんだい?」
「本気ですか?」
「何がだい」
「……いえ、別に」
何を聞いているんだと自分に叱り「どこに食べにいきますか?」と聞くと「帝人くんの食べたいものでいいよ」と言われる。
「今日はシズちゃんがいるだろうから露西亜寿司はダメだけど」
イライラ。
「臨也さんって静雄さんのこと以外と好きなんじゃないですか? 僕の前ではシズちゃんがシズちゃんがって、それは僕に話すべき内容ですか?」
彼の誕生日、どうせだからひとつさらに開いた歳の差に免じて正直に言ってやった。
「み、帝人くん?」
臨也さんは目を開いて僕を見つめる。
「僕はどうせなら静雄さんの出てこない臨也さんの話が聞きた……!」
ここまで言って自覚した。
イライラだと勘違いしていたのはただの嫉妬じゃないか。
臨也さんが静雄さんの名前をペラペラと語る同じ口で僕の名前や愛を語り優しく接してくるのが嫌だったんだ。
「帝人くん……ごめん…」
「…………」
悲しい表情で見つめてくる臨也さんに僕はなにも言えなかった。
握られた手が離れそうになったとき僕はその手を握り返した。
「すいません、臨也さんの言葉、全て間違えてとらえていました。」
「さっきの質問……」
「僕の間違いか確認しようかと悩んだら中途半端になって……すいません」
「本気だよ」
「俺は君を、帝人くん観察対象としてとかじゃなく好きなんだ、愛してるんだよ」
「本気……」
「まさか、とは思っていなかったけど本気だと思われてなかったとはね……」
はははと笑う彼は僕の頭をぽんぽんと叩いて、そして撫でた。
「さ、俺の告白がやっと届いたみたいだし是非とも答えがほしいな。今までみたいなのじゃなくてさ」
***