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【池袋クロ】24時間耐久鬼ごっこ【新刊サンプル】

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カット補完編




++開始から約一時間経過++

 鬼からの逃走のさ中、平和島静雄は不図、あることに思い当った。

――俺逃げる必要あんのか?

 その考えは鬼が去ってからも消えず、静雄は珍しくこたつで一人、ぐるぐると思考を巡らせていた。
 静雄が特殊な肉体を持っていることは、池袋民なら周知の事実である通りである。つまり、鬼から施される罰が身体にダメージを与えるものであるこの鬼ごっこ、たとえ静雄が捕まって罰が執行されようとも、彼にとっては痛くも痒くもないのである。さらに、鬼も静雄の事を知っているのか、彼をターゲットとして行動する鬼も滅多にいない。
 要するに静雄に限って言えばこたつに入ってゆっくりしていればそれで終わり。後はちょろちょろとちょっかいを出してくる鬼を我慢して――そこが一番の問題な気もするが――やり過ごせばいい。

――何だ、簡単だ。

 思い至ったら即行動。静雄はすぐに逃げるのを止めることにした。

***

ウーーー

 幾許の時間の経過の後、鬼登場。現れたのは〝頭突き〟。
 臨也、新羅、青葉の三人はこたつ布団を跳ねのけてすぐさま鬼とは反対へと走る。しかし静雄は動かない。そう決めていた。
 動く三人と対称の構えを取る静雄に各々目を剥いた。
「ちょっ!シズちゃん!?」
 動揺する彼らをよそに、一人長閑にミカンを剥く静雄。
 しかし、どういうわけか鬼は静雄をスルー。隠れてるわけでもなく堂々とミカンを食すその姿が見えてないわけはない。
 つまり意図的に無視している。確かに頭突きの場合、どちらかと言えば鬼の方にダメージが来る。それを知ってわざわざ突撃するほど馬鹿な鬼ではない。
「ずっり!」
 静雄の意図に気付いた青葉が不満に声を上げる。
「あんなんありかよ!?」
 それに気を取られた鬼が狙いを青葉に定めた。
「っ!ちょっと!あそこに!!」
 青葉は帝人や新羅程ではないにしろ運動を得意としていない。だから必死で静雄に矛先を向けようとするが、鬼は真っ直ぐ青葉に向かう。出遅れたせいで青葉の近くに臨也も新羅も居ない。鬼を擦り付けにそこまで行くには遠いし、彼らだって当然逃げる。
 つまり孤軍奮闘。
「帝人先輩!!あれいいんですか!?先輩!」
 悲鳴交じりに首謀者に訴えかけても鬼は止まらない。小さいからだけ懸命に走るも、ついにその腕が鬼の掌中に収まった。
「ひっ」
 小さく悲鳴を上げる青葉の頭を両手で固定。そうして頭を逸らし、そのまま青葉の額に勢いよく打ちつけ、ない。寸前で止まる。
「っ」
 息を詰めて鬼を見る。
 鬼はまた顔を上げ、迫る。眼前で停止。
「は、」

ゴッ

 息を吐いた一瞬の隙に迷わず攻撃。
「ぐぅっ」
 痛みに呻き、しゃがみこむ。
 鬼はそれで満足したのか、気がつけば居なくなっていた。
 青葉が唸っている所から少し離れたところでは、小さな混乱が起こっていた。
「え?シズちゃん、どういうこと?」
「もしかして帝人君と何か取引でもしたの?」
 静雄は煙草を吸っていた。ふーと煙を吐き出してチラリと二人を見やる。その口元は挑発的な笑みを浮かべ。
「取引ぃ?そんなんしねえよ。ただ別に殴られても頭突きされても俺痛くねえし、逃げる必要ねーなって。」
 鬼が自分を怖がってわざわざちょっかいを掛けることもないのも今ので証明された。常に疎んできたこの力だが、こんなところで役に立つとは思いもよらなかった。
「ま、だから俺はこれからこたつでゆっくりするからお前ら頑張って走り回ってろよ。」
 完全に現場に居ながら不参加を決め込むつもりの静雄に、しかし臨也はある提案をした。
「それなら一回ずつ交代で鬼から俺たちを守ってよ。」
「あ?何でてめえを守んなきゃなんねえんだよ?」
「別に臨也は良いから次私を守ってほしい。さっきから胸が痛くて……これ肋に皹入ってるよ。医者が言うんだから間違いない。」
 そこに新羅も割り込む。
「誰か俺の心配してくれてもいいんじゃないですか?」
「だからこの面子でそんなの無理だって。」
徐々に収集がつかなくなりつつある状況に更に痛みから復活した青葉も合流。
「っていうか骨折れたって、さっきまであんなに走り回ってたのによく言うよ。」
「だから皹だって。皹くらいなら走るのに問題はないよ。医者の僕が言うんだから(ry」
「いや、それ絶対嘘ですよね。」
 ぎゃいぎゃいと騒いではいたが、臨也の提案は静雄以外のメンバー全員にとって魅力的なものであった。

「とにかくさ、頼むよ静雄。僕らは毎回全力で走りまわってもう体力限界なんだ。ここで交代でも休めるだけで大分変わるし、後の二十三時間――まだ二十三時間も残ってるの!?まあ、とにかく少しでも楽にこの後を乗りきりたいんだ。」
 頼むよ静雄と新羅が拝み倒し、新羅と青葉だけは交代で静雄と一緒に休めることとなった。
「あー、わーったよ!要するに鬼がこっちに来たらお前らを庇ってやりゃいいんだろ?」
 流石静雄やら、何で俺だけ!?といった様々な声が飛び交ったが、とりあえず話は纏まった。

 しかし、事態は予想外の方向へと進んでいく。

++開始二時間経過++

ウーー

 合図。
 その時の休憩は新羅の番であったため、彼は素早く静雄の背後に回り込む。

 そうして現れた鬼。しかし今までの鬼とはその様相を違えていた。
 装束は同じ。明らかに違うのは、首から上が無いということ。そして胸には〝大鎌〟の文字。
 全身から影を燻らせてセルティは走る。
 が、わざわざ獲物を追う必要はなかった。
「セルティ―!!」
 向こうから向かってきたからだ。
 相手が恋人である事に一瞬躊躇はしたものの、刃は作ってないし、新羅だし、手加減もするし問題ないだろうということで、愛しい同居人に影で作った大鎌を振りおろした。
 が、それは彼には当たらなかった。
「ったぁ……」
 金色の男が新羅を庇うように立ちはだかっていたからだ。
 流石の喧嘩人形も同じ都市伝説からの攻撃とあっては無傷というわけにはいかないようで、痛みに顔をしかめている。

ピ――

 終了の合図。セルティは強力なので、登場時間が短い。
 多少の罪悪感はあれど、これもゲームのルールと割り切って、彼女は退場した。

 しかし、その後、ちょっとした紛争が勃発した。
「ちょっと静雄!何で僕とセルティの愛の営みの邪魔をしたのさ!?」
 セルティからの罰=愛の受容を邪魔された新羅が静雄に食ってかかったのである。だが静雄にして見れば、約束を果たしただけだ。
「あ?守ってほしいっつーから助けてやったんだろ?
 それより、お前あんだけ元気に走り回って、しかも鬼に突っ込んでって、ぜってー怪我とか嘘だろ?」
「セルティを前にしたら怪我の痛み何て吹っ飛んでっちゃうんだよ。」
 こんな時でも惚気である。半ば予想していたとはいえ、これまでのフラストレーションも相まって切れずにはいられない。
「あーもーてめえらなんか知るか!約束なんざ破棄だ破棄!!」
「ちょっと!俺関係ないじゃないですか!何で俺まで!?」
 不平を訴えるも最早静雄に聞く耳は無い。

 こうして、チーム内の団結力というものは順調に崩れて行ったのだった。