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【小ネタ】いい靴の話【BSRチカダテ】

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普段は仕事柄(会社では情報システム関連の部署に属している)情報通信関係やプログラム関係、また経済情報誌を読む事はあるが、こういったファッション情報誌を手に取るのは稀な事だった。
ただの気紛れ…と言いたいが、違う。いや、最初は気紛れで手に取っただけだった。が、パラパラと見るともなく捲っていて、ふと開いた頁の商品に目が釘付けになった。それと同時に、ある事が気になってしまい、揚句にその雑誌をお買上げしてしまった次第。
いま俺は、会社の喫煙ルームでその雑誌を再び眺めていた。
やっぱり…間違いない、と思う。
「カッコいい靴ですよねぇ」
隣で同じように煙草をふかしていた部下が、俺がジッと見入っているのに気付いて声を掛けてきた。おそらく俺がこの商品を気に入って見ているのだと思ったに違いない。だが…
「うっわ、ゼロの数が桁違いッスね…カッコいい筈ですよねぇ」
商品の横に申し訳程度の小さい文字で記された参考情報としての価格を差して部下が言う。
「……だな」
同意するように小さく相槌をうって、そっと雑誌をずらす。
チラリと見たのは、俺が履いている靴。
……ゼロの多さが桁ひとつ違う、靴。
「あれ?」
俺がわずか俯いたのに目敏く気付いた部下があからさまに俺の足元を見て声をあげた。やべ、見られた。
「この靴…え、マジすか、すっげー!」
「いやいやいやいや、ンな訳ねぇだろ」
雑誌を閉じて灰皿に置きっ放しにしていた煙草をとって、自分を落ち着かせるのに紫煙を大きく吸い込んだ。
「似てるもんだなぁ、と思って見てただけだっつの。買えるかよ、こんな高級な靴」
笑って言えば、
「いやぁ部長だったら買えるんじゃないですかァ?」
なんて冗談めかして返してくる部下の額を丸めた雑誌で軽く小突いてやる。
「阿呆か」
白けたように溜め息まじりに煙を吐き出した俺の態度から、部下はこの話題を軽い冗談で済ませたようだった。
他愛ない話をして煙草を吸い終わると、俺は部下と連れだって喫煙ルームを後にして職場へと戻った。



ずらずらとゼロが並ぶ価格のこの靴は、俺が買った物ではない。

俺は平均よりも身長が高い。その所為もあるかどうか、靴のサイズもややデカい。
気に入ったデザインの靴があってもサイズ展開がなくて諦めた事も1回2回で済まない。
幾つかの慣れた靴を着る物に合わせて使い分けながら履いていたのだが、そのうちの1つを先日ついに履き潰してしまった。新しい靴を買わねば、と探してはいるのだが、思ったようなブツがない現状。

その日も恋人?彼氏?みたいな、まぁ付き合ってる相手とショッピングに出掛け、何軒か靴屋を覗いていた。が、悉くサイズがなくて惨敗続きな結果だった。
それが、コトの発端。

「なんだってサイズが無ぇんだよ」
休憩に入った珈琲ショップでボソリと零した俺に、
「そんなもん、」
恋人?彼氏?みたいな…伊達政宗がマカロンを摘み上げ、さらりと言った。
「サイズが無ぇなら作っちまえばいいんじゃねーの?」
……ぱーどん?
「だから、作りゃいいじゃねぇか」
なんだその、パンがなければケーキを食べればいいじゃない的な発想は。
「そんなん言うならお前が作ってくれよ」
政宗は同じ会社で働く、いわば同僚だが、出自はやんごとない御家柄のようで、まぁ簡単に言えばボンボンだ。
そんなバックボーンからのさっきの言葉で。
俺は軽い気持ちでジョークのつもりで言ったのだが、
「Sure,いいぜ」
いともあっさりと許諾しやがった。
え、マジか?
政宗はもごもごとマカロンを咀嚼しつつ、ジャケットの内ポケットから携帯を取り出した。親指で幾つかのボタンを操作して、携帯を耳に宛がう。
「あぁ、俺。今から行きたいンだけど、いや俺じゃねぇ、ツレのだ」
通話相手が誰だか分からないが、政宗は慣れた様子だ。「See you」と締め括って、ピ、と短い機械音をたてて通話を終える。そして、
「それ飲んだら行くぞ」
と勝手に決めたスケジュールを押し付けてきた。

かくして、有名百貨店の応接室のような商談ルームに通されたかと思うと、俺は足の測定をされた。

そして数日後に届いたのが、この靴だったという訳だ。
まさかのセミオーダー。
それなりに値が張るんだろうなぁ、とは思っていた。
思ってはいたが……



「まぁ~さぁ~む~ねぇぇ~!」
帰宅して、玄関先に政宗の靴があるのを見止めた俺は、電気が皓々と灯るダイニングキッチンへと続くドアを押し開きつつ、低い声で唸った。
「Hello,dear.もう直ぐ出来るから着替えて手ぇ洗ってこい」
俺の声に、政宗はチラリと顔を向けると直ぐに手元に視線を戻してしまう。政宗の手元ではフライパンがふつふつと小気味良い音をたてていい香りの湯気をのぼらせている。
「旨そうな匂い…」
ついふらふらと歩み寄って政宗の隣に立ち並び、フライパンの中身を覗き見て言う俺に、
「ちょっとだけだぜ」
政宗は調理に使っていたスプーンに煮汁を掬って、肩越しに差し出してくれる。
「ほほ肉のワイン煮な」
「ん、ンまい」
政宗は料理が趣味で、俺より早く帰った時などは夕飯の用意をしてくれr……じゃなくて!
「そうじゃねぇ!」
「んだよ、口に合わねぇか?」
「いや、そうじゃねぇ。ってか、そうじゃなくてだなぁ」
「What’s your point?(何が言いたいんだ?)」
俺に差し出した同じスプーンで味見をし直していた政宗が怪訝そうに眉根を寄せて言う。
「あのな、」
言い置いて、俺は玄関に取って返した。そして例の靴を手にキッチンに戻る。
「これ、」
「…ンだよ、その靴がどうしたよ?気に入らなかったのか?」
「気に入るに決まってんだろ、履き心地抜群だ、コノヤロー」
「だったらいいじゃねぇか。ほら早く着替えて手ぇ洗ってこい」
「よかねーよ、おまえ、これゼロの数が違い過ぎンだろ」
別に俺が貧乏だとかケチだとか、そんなんじゃない。同年代の平均以上には稼いでると思う(相応に働いてるからな)俺だけじゃなく、営業部の要職にある政宗もそれなりの稼ぎだろう。加えてボンボンだ。
だからって……だからって……
「何だよ、気に入らねぇんなら履くなよ」
「誰も気に入らないとは言ってねぇだろ」
「じゃあ何が気に食わないんだよっ」
あ、ヤバい、ちょっと語尾が険しくなってきた…俺は別に政宗の機嫌を損ねたい訳じゃねぇんだ。
「値段だよ、そりゃあんたに買ってくれとは言ったけどよ、ンな高価なもんだと思わなかったしよぉ」
全額…はちょっと急には無理だから、せめて半分くらいは自分で払いたい。
「オレが買いたくて買ってやったんだ、アンタが気にする事じゃねぇよ…」
ちょっと困ったような照れたような…政宗の、この表情に俺は弱かったりする。
じゃなくて!
「気にすんだろ…今日たまたま見た雑誌で同じの載ってたけど、値段見てビビったっての」
「オレが気にすんなって言ってんだ、それはオレがアンタに買ってやったんだ、それでいいだろっ」
半ば自棄気味に言い切って、政宗はコンロの火を消して盛り付けを始めた。
この話はもう仕舞いだと言わんばかりに。
「まさむねぇ…」
それでも食い下がって言い募ると、
「いい男にはいい靴履いててもらいてぇんだよ」