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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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常磐の風・翡翠の空

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戦場には霧が立ち込めていた。
 早朝に一人、戦支度を終えた島左近は陣幕を離れ、眼下に広がる戦場を見下ろす。
 地図で地形は頭に叩きこんではいるものの、この視界の悪さはどうにもならない。
 溜息を吐いて、空を仰ぐ。
 頭上も霧に覆われ、晴れているのかも曇っているのかもわからない。
「…晴れ男の異名も今日までかねえ…」
 いつからか、左近の出る戦場には晴れの日が多くなった。
 特に晴天の日に心地よい風が吹けば、面白いように左近の軍略も冴え、勝ち鬨を上げることができた。
 いつしか周りの者から勝利の晴れ男と呼ばれ、悪い気はしていなかったが。
 肝心の今日この日にこの有様では何の意味もない。
「やれやれ…厳しい戦になりそうだねぇ」
 そこは天下分け目の関ヶ原。
 自軍も敵軍も双方決して負けられぬ決戦の地。
 不安がないとは言えないが、主や他の同盟主に不安を抱かせればそこでこの戦は終わる。
「…せめて風でも吹いてくれりゃあいいんだが」
 視線を眼前の霧に移したところで霧の幕はぴくりとも動く気配はない。
 再び大きく息を吐き。
「…神様仏様仙人様…ってね…」
 神頼みなど柄でもないが、この戦に勝つためであれば妖魔に魂を売っても構わない、とまで考えた。
 不意に、左近の背後からごお、と風が吹く。
 その背を押すような風に数歩前につんのめり、慌てて後ろを見る。
 誰もいないと思っていたそこに、一人の青年が立っていた。
 体に似合わないほどの長剣と同時に長銃を背負ったその青年は、先ほどの左近と同じように戦場を見下ろしている。
「……こいつぁ驚いた。伏犠さんじゃないですか」
 驚きの去った後に、左近が気を取り直して挨拶すれば、青年も片手を上げて応え、静かな足取りで左近の傍らへと並ぶ。
「霧が深いな」
「ああ。こいつはちょっと厄介だ。…それよりあんた、いつこっちに?」
「ついさっき着いたところだ」
「この早朝にかい?相変わらず、無茶する御仁だ。…ここらの地形は?」
「まだだ。後で地図をくれ」
「了解。後で作戦と一緒に説明しましょ?」
 視線を霧に沈んだ戦場に向けたまま、淡々と言葉を交わす。
 そのまま二人並んで暫く黙って戦場を眺めていたが、ふと左近が口を開く。
「そういや、面白い話を聞いたんだが…その昔、三国志とか言われてる時代に、あんたと同じ名前の英雄がいたって話だ」
「俺と同じ名前…?」
「そいつも、あんたと同じように各地の戦場に現れてはその戦を勝利に導いて、いつの間にかいなくなってる。しかもそいつも、最初に戦場に現れた頃から全然年を取らなかったらしい」
「…そういえば、左近とも長い付き合いだな」
「…あんたは最初に会った時から全然変わらないね。しかもあんたのその名前、向こうじゃ神様の名前だっていうじゃないか。偶然にしては、出来過ぎだ」
「どうだろうな。俺にもよくわからん」
 青年は背負っていた長刀を抜き、目の前に向けてまっすぐに腕を伸ばす。
「俺は自分のことがわからん。だが何をするべきかは、わかる。この戦の先を、この乱世の先を見ろと、そう言われている気がする」
 長刀の切っ先が上がり、白刃を翻して背中の鞘へと戻して青年は左近を見る。
「この戦が終われば、三成が天下統一を成すのだろう?俺も手を貸そう」
「…せめて人前じゃ殿って呼んで欲しいもんだがね…ま、あんたが力を貸してくれるんなら百人力…いや、千人力だ。この戦、貰ったも同然だな」
「俺だって万能じゃない。過信はしないほうがいい」
「って言ったってあんたが加勢して負け戦になったことないでしょうに。敵陣にあんたを見た時の絶望感、教えてやりたいねえ」
「人を物の怪のように言うな」
 憮然とする青年に対し、左近は楽しげに笑い。
「大差ないでしょうが。ま、俺はあんたが鬼だろうが物の怪だろうが関係ないがね…って、そろそろ皆が起きだす頃だ。その前に作戦説明しないとね」
 辺りが薄っすらと明るくなり始め、左近は慌てたように青年の腕を取り、陣幕へと向かって急ぎ足に戻ろうとする。
 青年もやれやれといった表情を浮かべながら、昔なじみに腕を引かれるままに、此度の自分の陣幕へと足を踏み入れた。