幸福の条件
俺がため息をつくと、新羅はうっとうしそうに俺を睨みつけてきた。
「あのさ、人の家に突然押しかけてきて盛大なため息つくのやめてくれる?僕とセルティの幸せまで逃げちゃうじゃない。」
そんなことは俺の知ったことではない、ともう一度ため息をついてやる。
「ていうかさ、何で今日はそんなに落ち込んでるわけ?最近、機嫌良さげだったのに。セルティに聞いたよ〜、帝人くんと付き合い始めたんだって?」
ニヤニヤ、と人の恋愛事情に首を突っ込んでくるのは自分があの首なしとうまくいってることからくる余裕からだろうか?とうんざりする。
「別にお前には関係ないだろ?心配されなくても俺はお前と首なし以上に帝人くんとラブラブだから。」
「じゃあ何でため息なんかついてるの?どう見ても幸せからくるため息には見えないけど。」
それはそうだろう、これは俺の悩みからくるため息なんだから。それを察したのか、新羅はふう、と息を吐いて苦笑する。
「なんだったら僕が君の相談に乗ってあげないこともないけど?一応これでも君に関してはよき理解者であるつもりだしね。」
俺は一瞬逡巡してから、溜め込むよりはいいかと口を開く。
「帝人くんと付き合うようになってから思うんだけど、俺は帝人くんと一緒にいないほうがいいんじゃないかな。」
「おや?それはどうして?」
新羅の口調がどこかのカウンセラーのようだと思いながらも続ける。
「俺はさ、自分で言うのもなんだけどめちゃくちゃそこらじゅうから怨み買ってるわけ。職業柄仕方ないかな、とは思うけどさ。だからいつ俺が刺されてもおかしくないわけなんだけど、絶対俺に仕掛けてくる奴らはきっと真正面からじゃなく俺の弱点ついてくると思うんだよ。それってつまり、帝人くんが傷つけられちゃうってことだろ?だったら俺は帝人くんの傍にいちゃいけないと思うんだよね。」
そこまで言うと、新羅は呆気にとられたように口を開ける。
「驚いたな、君がそこまで誰かを守ろうとするなんて。」
新羅の言葉に俺は苦笑する。
「俺だって驚いたよ。帝人くんのこと好きだって気付いたときはなんて面倒な感情なんだろって思ったりしたのに、今じゃそれが心地いいなんて思えてるんだから本当に笑える。でも、俺は耐えられないんだよ。俺がもし腕一本折ったところで痛くも辛くもないんだろうけどさ、帝人くんが怪我をしかも俺のせいで傷つくのとか見てられない。あの子にはずっと笑っててほしいんだよ。」
なんて情けなくて恥ずかしいことを新羅ごときに話しているんだろう、と頭の中では思っているのに口が勝手に次から次へと言葉が出てくる。
「臨也の言いたいことはなんとなく分かったよ。帝人くんが好きで傍にいたい。でも自分が傍にいるから帝人くんを傷つけちゃうかもしれない、だから不安で仕方ないってことだよね?だったら君は一体どうしたいの?」
「俺は・・・」
少し考えて、ずっと前から考えていて、たった一つだけ浮かんでいたもっとも最良で、自分にとっては一番望まない答えを導き出した。
「俺は、帝人くんと別れた方がいいんだろうね。」
新羅の疑問に答えた、というよりは自分自身に尋ねているようだと思った。
「帝人くんはとてもいい子なんだ。俺と付き合ってること以外を除けばあの子は世界で一番素敵な子なんだよ。だから俺は帝人くんから切り捨てられるべき存在なんだよ。帝人くんが幸せになる為には俺が帝人くんから離れなくちゃ・・・」
「じゃあ、僕きっと一生幸せになれませんね。」
新羅とは違う今ここにはいないはずの、俺にとって愛しい子の声が部屋の中に響いた。
「み、みかどくんっ!?」
動揺する俺に帝人くんがにっこりと微笑む。
「さっきセルティさんが迎えに来てくれたんですよ。なんでも新羅さんから僕を連れてきてもらうよう言われたそうで。」
チラ、と新羅を見ると、新羅はピースしながらニヤニヤと笑っている。
「それで、さっきの話なんですけど。」
さっきまでの笑顔を消して真剣な表情をして帝人くんは俺の顔を覗き込む。
「僕は臨也さんのせいで傷つけられたり、辛い思いするかもしれないってことは僕が臨也さんのこと好きになった時からちゃんと分かってたし、覚悟もしてました。その上で僕は臨也さんと付き合うことにしたんです。それなのに今更臨也さんを僕が切り捨てられるはずないでしょう?」
それに、と帝人くんは今にも泣き出しそうに微笑んだ。
「僕の幸せになる条件には臨也さんが必要不可欠ですから。」
「・・・っ!帝人くん!!」
俺は帝人くんを思い切り抱きしめた。苦しいです、と訴える帝人くんをそれでも強く抱きしめる。
「俺が、幸せになる条件にも帝人くんは必要なんだからね!」
「・・・はいっ!」
自分がどんなに考えて帝人くんを幸せにしようか悩んでいるのに、この子は無意識に俺を幸せにしてくれるんだから。
(本当、帝人くんには敵わないなぁ・・・)
そう思いながら俺は帝人くんの唇にキスをした。
☆おまけ☆
「ていうかあの二人ここが僕たちの愛の巣だってことおもいっきり忘れてない?」
【いいじゃないか、帝人が幸せそうで私は嬉しいぞ?】
「でもいいなぁ。ね、セルティ僕たちもあんなふうにイチャイチャ、っていたたたたた!!」
【調子に乗るな!!】
「悪かったよセルティ。これも愛情表現なんだって僕はちゃんと分かってるからね。」
【一遍死んでこいっ!!】