Why don't you hate me more?
「…………」
「だってほら、血すら流れ出そうもないよ?人間としての常識を持ってしたら、有り得ないじゃない、こんなの。もっとこうさ、常識を踏んだ生き方した方が良いよ、シズちゃん。」
「………なんだ、臨也くん、」
「なあに?シズちゃん。」
「俺の名前は平和島静雄だって、俺は前にも言ってるよなあ?…それと、」
今すぐブッ殺す!!、とバーテンダーの恰好をした青年が叫んだのと同時に、先程まで長々と話していたフード付きのコートを羽織っているこれまた同い年位の青年は機敏な動きで後ろへ飛んだ。右手で少しだけ血液がこびりついたナイフをくるくると回しながら、まるで張りぼてであるかのように投げ飛ばされて来た道路標識を軽く躱し余裕すら浮かんだ笑みでシズちゃん、と呼ばれている青年を見た。
「あーあ、公共財は皆の汗水垂らして払ってる税金で出来てるんだよ。そんな簡単に壊しちゃ駄目じゃない。」
「臨也くんが大人しく殺されてくれりゃ、俺だって壊さずに済むんだけど、なッ!」
お次は近くにあった自動販売機が宙を舞う。一般的に考えて果たして何百キロあるのかという自動販売機を動かす事自体が非常識なのだが、怖いもの見たさの面白半分で野次馬をしている人々にとってはさほど驚くべき物でも無かった。ただし、二人とも…というより当の馬鹿力の持ち主が周りが見えなくなっている為に何が飛んでくるか分からない恐れがあるのは否めないが。
「俺はさっきみたいに殺意を持ってもシズちゃんを殺せないのに、シズちゃんだけ俺を殺せる手段を持ってるのって不公平だと思わないの?そりゃシズちゃんは馬鹿も大概にして欲しい位の馬鹿力だけど、俺は至って普通の、標準的で真っ当な愛すべき人間の一人なんだよ。」
「うるせェ、誰が真っ当だ殺す。」
「そうやって馬鹿の一つ覚えみたいに殺す殺すってさ、この国でもこの国じゃなくても、人が人を殺すためにはそれなりの理由が必要なんだよ。例えば殺らなきゃ殺られる、とかね。」
それならバーテン風の男には理由らしい理由が有るんじゃないかと思うのだが、確かに拳でコンクリートを豪快に破壊したり、鉄の塊を難無く自在に振り回している時点で色々な常識を超越はしている。互いが追って追われている内に何時の間にか人気の無い袋小路きまで行き当たり、比べて小柄な男が反対に背の高い男の投げた自動車の扉と反対方向に避けた瞬間、待ち構えて居たかのように伸びてきた腕が慣れた手つきで刃物を扱う手首をしっかりと掴んだ。
「ッ、痛いよ、…シズちゃん。」
「ようやく捕まったなあ、臨也ァ。仕方無ェからよ、殴り殺されるか、ボコり殺されるか位は選ばせてやるよ、」
ちゅ
「…っ、!!!???」
間の抜けた音が暗闇に響き、金髪の男のサングラスの奥の瞳が大きく見開かれる。その隙を突いて上手いこと手首を解放させるとそのまま刃物をサングラスの柄の丁度下辺りに滑らせた。流石に皮までは丈夫ではないのか、頬には常識的な範囲で傷が付きそこから紅い血液が一筋流れ落ちていく。それを何の躊躇いも無く舌先で舐め取ってから、まるで裏表の無いような満面の笑みを見せた。
「俺はシズちゃんの事、世界で唯一、一番大ッ嫌いだよ。嫌いすぎて、シズちゃんが存在してるだけで忌ま忌ましいったらありゃしない。」
そう言ってもう一度、今度は簡単に避けられる位にゆっくりと唇を近づける。しかしそれは拒まれる事なく受け入れられ、恋人同士か何かのように影が重なり合った。愛情なんて生易しい物じゃない、敵意とも言い難い視線を互いに絡み合わせたまま唇が離れ、優しいとは程遠い乱暴な動きでフード付きコートの肩口部分が壁に押し付けられた。
「寄寓だな、…俺もだ。」
Why don't you hate me more?
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若干イザシズでも通りそうだけどシズイザです。
っていうか突っ込まれる方が臨也くんなら精神的に逆だろうととても美味しいんですけどね。すみません黙ります。
ちなみにこの時臨也くんは可愛いげなくシズちゃんの足を踏んでれば良いと思うんだ…。