きっと明日からもあなたが好き
「夜、バーに来てください」
と、書いただけのそっけないものだけど、すごい勇気が必要だった。
来なければ来ないでいい。でもどこかできっと来ると思っていた。
2・3曲終わったころ、あの人は来て
いつものように・・・ただし今日は手の動作だけで「よう」と言った。
私は目配せでそれに答えて、次の曲を弾きはじめる。ここでいつも歌っている定番のナンバー。
終わると拍手が起こる。あの人も人一倍大きな拍手をくれた。
次の曲は、わたしのもうひとつのバレンタインプレゼント。だったのに・・・・・・。
「それな、友恵が好きだった歌なんだ」
とあの人は言ったのだ。
ああ、そうだったんだ・・・。
だから、いつも歌ってるんだ・・・。
「俺もすげー好きなんだ・・・でもよく知ってたなぁ、こんな古い歌・・・っておい!! カリーナ? なんで泣いてんだ? 腹でも痛くなったのか?」
痛いのは胸だ。
「なんでもない!!ほっといて」
「馬鹿、ほっとけるか!! おまえもいろいろ辛いことがあるんだよな・・・まだ子供なのにさ。パオリンもおまえもうちのチビといくらも変わらない歳なのによくやってると思うよ。今日は、おじさんがいっぱい聞いてやるから、なんでも話してみろ」
結局、店を早退させてもらって車で送ってもらっている間、社長やスポンサーについての愚痴を延々と話した。虎徹は取り留めのない話を辛抱強く聞き、時には一緒に怒り、時にはカリーナを諭した。
いつの間にか涙も止まっていた。そのままで帰ったら親御さんが心配するから、と公園の冷たい水で顔を洗わされた。
「タイガーってパパみたい。うっとうしい」
「うっとうしくてけっこう。9年もパパやってるとな、世の中の子供全部がかわいく見えんの」
「あたし子供じゃないもん!!」
「はいはい・・・」
「恋だってしてるもん」
「涙の止め方がわからないうちは、恋なんてすんな!!」
車にあったスポーツタオルでぐりぐり顔を拭かれて助手席に放り込まれ、家の近くまで二人とも黙ったまま走った。
「なあ、カリーナ」
「・・・・・・」
「もし楓がもーちょっと大きくなって、20も年上の男と付き合ってますとか言われたらさ、俺、その男殴っちまうわ」
「・・・・・・」
「だから、ごめんな・・・」
「・・・うん」
「泣くなよ」
「泣かないもん」
「また明日な」
「うん、送ってくれてありがと」
カリーナは笑って手を振った。
今夜はホットワインでも飲んで、ぐっすり眠ろう。
明日元気にあの人に会えるように。
END
作品名:きっと明日からもあなたが好き 作家名:みのり