マハラガーン
王が召し抱える八人の将がその首を落とせば宴のはじまり。
そしてこの季節は、まとめて海獣が現れるので、謝肉祭・マハラガーンは45日もの間開かれる。
その宴のために国中から、あるいは海の彼方から観光客や商売人が集う。
私もその一人。
薬草売りをしております。
マハラガーンが開かれるシンドリアへ入った時、私は一人の男と出会いました。
長い黒髪を一つに束ね、両の耳朶に金環の耳飾りをした男です。
『パセリ、セージ、ローズマリーにタイム』
商売文句を言うと彼は私に声をかけました。
――マハラガーンへ行くのかい?
それならある人に伝えてほしい。
彼はかつての恋人だから。
エウメラ鯛の鱗で衣を縫えと伝えてくれ。針の跡も糸の縫い目も残さずに。
それができたらお前は俺の恋人だと。
そしてそれをバアルの迷宮が現れた海で洗い、アバレウツボの背で乾かせと伝えてくれ。
それができたらお前は俺の恋人だ。
『パセリ、セージ、ローズマリーにタイム』
私は宴に向かいました。
言われたとおりに一人の男を訪ねました。
銀の髪に白い肌に散るそばかす。深緑の頭巾を被った男を訪ねました。
『パセリ、セージ、ローズマリーにタイム』
すべてを伝えると男はいいました。
――マハラガーンへ行くのですか?
ならばそこに来るはずのその人に伝えて下さい。
彼はかつての恋人だから。
パパゴラスの嘴で畑を耕すよう伝えて下さい。朝と夜の間の時間で果樹園ほどの広さの土地を耕してください。
それができたらあなたは私の恋人だと。
そしてそこに火の中をくぐらせたバラの種を植えて、咲いた花を一本残らずバオバロブの葉で刈るよう伝えて下さい。
それを持ってきたらエウメラ鯛の鱗でできた衣を渡しましょう。
『パセリ、セージ、ローズマリーにタイム』
もしも出来ないと言うのなら……。
『パセリ、セージ、ローズマリーにタイム』
ああ、せめて、
やってみせると仰ってください。
そうしたらあなたは私の恋人。
-END-