チョコとタバコと甘いキス
「静雄さん、これ。」
そう言って手渡されたのはラッピングされた小さな箱だった。
「静雄さんは甘いもの大丈夫でしたよね?」
そう言われて今日がバレンタインであることを思い出す。
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。」
礼を言うと、帝人はくすぐったそうに笑ってから俺の顔を覗き込む。
「それ、僕が作ったんですよ。よかったら今食べてみて感想教えてくれませんか?」
俺は構わないと頷くと、ラッピングを丁寧にはがしてから箱を開けた。
そこにはいくつかのトリュフが入っており、手作りとは思えないほど綺麗な出来栄えだった。
これを自分の為に作ってくれたのかと思うと胸の奥が少しだけ熱くなった。
一つ摘んで口に放り込むとゆっくり味わって咀嚼する。
口の中に広がるのはチョコの味だったが、なんだか特別な感じがした。
「どうですか?初めて作ったんですけど。」
「・・・ああ、うまい。」
「そうですか、よかった。」
ほっと胸を撫で下ろす帝人を微笑ましく思いながらもう一つに手を伸ばした時にはっとした。
(俺、帝人に何も用意してねぇ。)
帝人にチョコをもらうまで忘れていたとはいえそんなのは言い訳にはならないだろう。
それにこうやって手作りのものをくれたということは帝人はずっと前から楽しみにしていたのかもしれない。
「静雄さん?」
俺の様子が変なのに気付いたのか帝人は小さく首を傾げた。
「悪ぃ、俺お前に何も用意してねぇ。」
素直に打ち明けると、帝人はなんだそんなことかと笑った。
「いいんですよ。僕がしたくてしたことだし、それに静雄さんなら忘れてるだろうなって思ってましたから。」
どうやら帝人は最初から俺が忘れていることも予想済みだったらしい。
「でも俺だけもらうってのもフェアじゃねぇからな。今からなんか一緒に買いにいくか?」
手作りのお返しに既製品を返すのは少し愛情の差みたいなのを感じたが、何もないよりはマシだろう。
俺がそう言うと、帝人は首を横に振った。
「いえ、そんなのいいんですよ。なんならホワイトデーがあるじゃないですか。」
「そ、そうか。」
項垂れている俺を見かねたのかあーでも、と小さく呟く。
「一つだけ欲しいものというか、してほしいことがあるんですけど・・・」
「なんだ?言ってみろ。」
「えーっと、さっきあげた僕のチョコ、食べてください。」
不思議に思いながら言われた通りに一つチョコを口に入れる。
チョイチョイ、と服の裾を引っ張られ、屈んでほしいのだと言われているのだと気付き、身を屈めると、これでいいか?と開きかけた口を帝人の唇で塞がれた。
そして俺の口の中にあるチョコを帝人の舌が攫っていった。
唇が離れ、ボーッとしていると、帝人は頬を少し赤くしていたずらっぽく笑った。
「静雄さんの口の中、チョコとタバコの味がしました。」
照れくさそうに、それでいて嬉しそうに言う帝人に俺は顔が熱くなるのを感じる。
「もしかして静雄さん、すごく照れてます?」
それはお前もだろ、と言うかわりに今度は俺からキスをした。
舌を絡め合うほどの深いキスをして、思う存分堪能した後、腰が砕けそうになっている帝人を片手で抱えながら俺はふ、と笑う。
「帝人の口の中はチョコがなくても甘いんだな。」
そう言ってやると、帝人の顔がみるみる真っ赤になっていった。
帝人は俺を睨むと、そっと俺から離れた。
「静雄さんって意地悪です。」
頬を膨らませてそう言うと、帝人は俺に背を向けて歩き出した。
本気で怒らせちまったかな、と思っていると、前を歩いていた帝人がピタと動きを止めて振り返った。
「・・・ホワイトデーも、同じのがいいです。」
顔を赤くしたまま言う帝人に俺は思わず噴出した。
「ホワイトデーだけじゃなくて今からでも。」
俺はそう言って帝人に近づきもう一度キスをした。
☆おまけ☆
このやりとりはあまり人気が無いとはいえ夕方での出来事だった為・・・
「ゆまっち!静帝!静帝よ〜っ!生BL!ちょっと早く写メんなきゃ!あとビデオカメラとデジカメ〜っ!」
「か、狩沢さん落ち着いて!」
興奮冷めやらぬ狩沢を遊馬崎が落ち着かせようと右往左往する。
「ちょっと!俺、帝人くんにチョコもらってない!臨帝フラグはどこいっちゃったわけ!?」
なぜかワゴンの中に一緒にいる臨也も意味の分からない興奮をしていて、胃に穴が空くような思いを門田がしたことは言うこともない。
作品名:チョコとタバコと甘いキス 作家名:にょにょ