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バレンタイン/プレゼント

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どうやら明日がバレンタイン当日だったようだ。
 久々にバイト先のコンビニに姿を現した蓉司は、棚の一角を占領しているチョコレートたちを眺めるでもなく見ていた。
 どうりで最近クラスが浮き足立っているわけだ。女子はひそひそと何事かを企んでいるかのような内密話が多くなっていたし、男子はそんな女子たちへちらちらと視線をやりながら、これまた内密話や抑えた笑い声が増えていた。おおかた、当日に誰にチョコレートをあげるだのもらえるかだのといった話題なのだろうが、あいにく駒波学園では基本的に菓子の持ち込みは禁止されている。
 そんなことは知ったことではないとばかりに毎日たくさんの菓子を胃袋に納めている友人がひとりいるが、たまに教師に見つかって没収されているところも見かけるので、学校内に持ち込んでまで渡そうとする猛者はそうそういないだろう。
 もし、持ち込みが大丈夫な学校だったら。
 レジを打ちながら、きっと大量にもらうであろうクラスメイトの姿が思い出される。
 城沼哲雄。
 あの男はきっと、学校外でも貰うのだろう。他校の女子にも目を付けられているらしいと睦が言っていた。
 ありがとうございました、と客を見送り、小さく息を吐く。
 去年は――。
 蓉司からプレゼントしたのだ。いつも勉強を見て貰っているお礼に、蓉司なりに頭を悩ませながらプレゼントを選び、贈った。もう持っているものかもしれないと思ったのは渡した時だったけれど、それでも哲雄は喜んでくれたし、その後彼の家に行った時もどうやら贈り物は本来の用途を果たしている。贈って良かったと素直に思えた。
 さて、今年は。
 すっかりバレンタインのことなど頭から抜け落ちていたため、何も用意していなかった。ベタに、チョコレートでも贈ろうか。いや、それでは3年に進級できたばかりか何とか卒業もできそうなことに対する礼には及ばないのではないか。
 ――どうしよう。
 迷っているうちにバイトが終わる時間が来てしまった。
 着替えてからも店内をうろうろとしながら考え込んでいたが、あまり長居していると交代のバイトに不審に思われる。気付いて慌てて店の外へ出ると、見知った顔が立っていた。哲雄だ。
「城沼……? どうして」
「バイト、終わったのか」
「ああ……、……もしかして、待ってたのか?」
「ああ」
「何かあったのか?」
 時刻はまもなく日付が変わる頃。夜中だ。こんな夜中に何をしに来たのか。まったく、哲雄の行動には驚かされる。
「……これ」
 哲雄がカバンから何かの包みを蓉司へと差し出す。条件反射で受け取り、よく見ると丁寧なラッピングが施されている。
「これ……どうしたんだ?」
「バレンタインだろ」
「えっ」
「去年はもらったから」
 今年はその逆で、ということだろうか。
「開けても、いいかな」
「ああ」
 ラッピングをなるべく丁寧に剥がし、両手の平に収まりそうなサイズの箱を開ける。
 出てきたのは、眼鏡だった。
「これ……」
「度は入ってない」
 ということは、伊達眼鏡か。
 グレーの細めのセルフレーム、柔らかなカーブ。
 表や裏にひっくり返して眺め、それからおそるおそると掛けてみる。
 哲雄の眼鏡を掛けた時とは違う、裸眼と変わらない視界。
 ただレンズ一枚を隔てただけなのに、目の前の哲雄が少し違って見えるような気がした。どう違うのかは、うまく言葉で言い表すことができないのだけれど。
「ありがとう……大事にする」
 はにかみながら微笑むと、髪をくしゃりと撫でられた。