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金色の双璧 【連続モノ】

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「・・・・・・遅い」
「申し訳ございません」
 怒鳴られると思って覚悟していたが、拍子抜けするぐらい極めて普通の反応を返す教皇をちらりとアイオリアは伺った。
 到着した時同様、シオンは腕組みしたままむっつりと目を閉じたままである。息苦しいくらいの沈黙のあと、やっとシオンは口を開いた。
「アイオリア」
「はい」
「そなた、シャカから何も聞いておらぬのか?」
「はい?」
 語尾を上げて疑わしそうにシオンを伺うと、サガが零した溜息よりなお深い息をつくシオン。何か拙い事でも云っただろうかと考えを廻らしてはみたものの、「はい?」だけである。
 そんなアイオリアにかまわず、シオンはやはりシャカのように目を閉じたままで詰問する。
「シャカはインドに戻る理由をおまえになんと説明していたのだ?」
「え・・・インドが“家”だから戻るのだと・・・あいつは申しておりましたが」
「ふん。あやつらしいが。それで、そのことをおまえは何の疑いもなしに額面どおりに受け取ったというわけか。まったく目出度い男よの、のうアイオロス」
「ま、それが弟の良いところでもあり、悪いところでもあります」
 突然背後からアイオロスの声がして驚いて振り返ると、いつものお気楽ムードは感じさせず、どこかピリピリと張り詰めた気をアイオロスは纏っていた。
「兄さん?」
「それに恋は盲目と言いますし、今のアイオリアにはシャカの色気しか目に入りませんよ。教皇?」
「まったく、シャカといい、ムウといい・・・務めをなんだと思っておるのか。ムウも余計なことをしたものだ。いい加減イライラしているのはわかっていたが、下らぬことに手を貸しおって!」
「あのぉ・・・話が見えないのですが」
 おずおずとアイオロスとシオンの間に割って入ったアイオリアだが、カッと見開くシオンの眼光に思わずたじろいだ。目から光線でも発したような気さえした。
「黙っておれ!この虚け者が!!」
 一喝され、渋々口を噤み、首を竦めるとアイオロスとシオンの会話に耳を傾けた。
「して、様子は?」
「は。教皇に伺っていたとおり、ひとつは聖域に今ひとつは五老峰に歪みが生じておりますがどちらも微々たるもの。そして・・・」
 そこで一旦口を閉じたアイオロスはちらりとアイオリアに視線を向けた。
「かまわぬ、続けよ。己の能天気を恥じるがよいだろう」
 厳しい教皇の言葉にアイオロスは視線を戻し、畏まりながら続けた。
「他の聖闘士たちが配置したところは相手側も感じ取ってか次々に場所を変え、最終的には遅れをとったインドへと照準を定め、今一番大きな歪みとなっているようです。ムウも助力しておりますが、如何せん本格的に結集された力ゆえに、なかなか歪みの修正が捗らぬようです」
「ふむ。しかし、五老峰および聖域への歪みも消えておらぬ以上、下手に人員を割くことはできぬ。最終目標はこちらであろうからな」
「ええ、まさしくそうだと私も思います。シャカもそのように申しておりました。二の舞にならぬよう、彼奴らはシャカを足止めするつもりなのでしょう。各地から聖闘士たちを呼び戻しておくほうがいいだろうと、老師も、シャカも申しておりました」
 組んでいた腕をようやく下ろし、シオンはすっと立ち上がるとイライラと玉座の前を行き来した。
「それに関しては既にサガが動いておる。・・・・アイオリア!」
アイオロスと教皇の会話を聞いて、頭を混乱させていたアイオリアはすぐには返事ができないでいた。アイオロスは心情を察してか、コツンとアイオリアを小突き、はっとしたようにシオンを見た。
「あ・・・はい」
「おまえが下らぬことに現を抜かしている間も他の者たちは脅威を感じ取り、行動しておるわけだ。おまえは自分がどうすればいいと思うのだ?言うてみよ」
「わ・・たしは・・・」
 ぐっと拳を作り握り締めて俯いたまま、アイオリアは云うべき次の言葉が見つからなかった。フンっと呆れたようなシオンの溜息に、さらに拳を硬く握り締めたまま足元を見つめた。
「・・・しばし、己が宮にて頭を冷やすがよい。おって、おまえには命を下す。下がれ」
「はい」
 それ以上は無用とばかりに冷ややかな眼差しを向けられ、何も言えずアイオリアはくるりと踵を返し、逃げるように教皇の間から立ち去った。
「あれで、少しは目が覚めるでしょう。ありがとうございました」
 去っていく弟の力ない背中を見つめながら、僅かに憐憫の情を浮かべつつ、アイオロスはシオンに礼を述べた。
「ふん。覚めて貰わねば困る・・・恋愛は自由じゃ。だが、我らには自由はないのだ。いつ何時たりとて、気を緩めることがあってはならぬ」
「手厳しいですね。確かにそうですが・・・此度の現象が落ち着いたら、彼らに暇をやってはくれませんか?」
「任務遂行のあかつきには、考えてやらんでもないがの」
 僅かに口元を緩めながらシオンはアイオロスの提案にそう答えた。
「このまま・・・冥界陣が大人しく引き下がってくれればよいがな」
 そう呟くシオンにコクリとアイオロスは頷くと、頬を引き締めた。
「このパターンは熾烈を極めた260年以上前の聖戦と似ていると老師が仰られていましたが、そうなのですか?」
「ああ・・・パターンとしてならば、な。前回のように冥界に直接乗り込んでということのほうが過去に例のないパターンであった。しかし、冥界での戦線は圧倒的勝利とはいかず、火種を残したまま終局した。混乱の最中再結集された我ら同様、冥界もまた布陣を整えたのであろうな。守りを強固にしているだろうから、以前のように奇襲をかけるというわけにもいかぬ。今回はどう動くか・・・察するに易い」
「シャカが危険では?」
「ゆえに、シャカは聖域を離れた、と思うのであろう?こまめに様子を伺っておったのはそれゆえであろうが」
「さすがは教皇。やはり色ボケのアイオリアとは違いますね」
「たわけ。発情期の獅子と一緒にするな」
 ハハっと小さく笑いながらアイオロスは目を細めると、感慨深そうに呟いた。
「アイオリアとシャカ・・・金色の双璧たるこの二人が、必ずや聖域を、アテナをお守りすることでしょう」
「そうあることを望む。いや。そうあらねばならぬ」
 目元を僅かに緩めたシオンはドカリと玉座に座ると再び目を閉じた。小さく頭を垂れたアイオロスは静かにその場を後にしながら、思う。


 ―――強い絆でもって、ふたりは必ずこの危機を乗り越えるだろう、と。




作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠