独白
満たされない欲求が身内で渦を巻く、その、濁流の醜さを知らぬ風な男に一層憎らしさをさえ覚える。何時だって、優しいだけの口付けでは溝は埋まらなかった。薄い唇の裏にある咬み砕くための牙を、他でもないこの骨肉をもって愛でることもあるいは可能であるのに、縦令誰が赦さなくとも。
強請る仕種で互いを掻き立てあう、閉じた目蓋越しに互いを見詰めあう、首から下の恭順を解きながら絡めあう、呼吸は最早音では無くなっている。
口付けに残る未練の味は甘い。取り返しの付かない別離の痕跡を目に焼き付けながら、それでも今こうして、何事もなかったかのように睦みあっていればこそだ。口を噤む術を学び、口を塞ぐことを身につけたればこその融解だ。
二度と、二つの意志が不協和を奏でぬようにと、祈りながら刹那息を止めた。