Now Waiting
「なんじゃ?藪から棒に」
妖魔軍相手に大斧を振るう徐晃の背を眺め、竹中半兵衛は退屈そうに頭の後ろに手を組んだままぽつりと呟く。
地面に突き立てた大剣を杖がわりにして、その柄の上で組んだ両手に顎を乗せていた伏犠が半兵衛を見る。
「だってあれ絶対に気付かれてないよ?虚しくない?」
「話が見えんのう?」
半兵衛はちらりと視線を伏犠へと向けるが、伏犠はいつもの楽しげな表情のままで、全く感情が読めない。
「…でも選択肢すら見せないって、どうかと思うなー。あれじゃあ左近さん、どこにも行けないじゃない」
「束縛しておるつもりはないぞ?」
「でも、離れるつもりもないんでしょ?残酷だなー。どうせ連れていく気もないくせに」
何かが心の琴線に触れたらしく、伏犠は声を上げて笑う。
そのまま片手を伸ばして半兵衛の帽子をばふりとはたいて、その拍子に帽子の縁が半兵衛の視界を狭める。
「何するのさー」
「そういうお主こそ、飼猫の世話はちゃんとせい」
「わかってるよ」
「さもなくば、諦めて次の飼い主を探してやることじゃな」
両手で帽子の位置を正していた半兵衛の手が止まる。
その視線が地に落ちる。
「………やっぱ、どうにもなんないかな」
「ならんな」
「伏犠さん神様じゃないの?」
「仙人じゃと言うとる。…どうにもならんもんはどうにもできん」
「ちぇー」
ふくれっ面をする半兵衛を眺めてまた笑っていた伏犠は、ふと何かを思い出したように片手を顎にあてて顎髭を摩り。
「…ああ、じゃが、あやつの場合は少々変わっとるからのう。もしかすれば、もしかせんこともないわい」
「…?」
「黒田官兵衛。あやつは此方向きじゃ」
ひたりと秘色色をした眸が半兵衛を見据える。
「…それはダメ。官兵衛殿をそっち側に渡すぐらいなら俺が連れてくよ」
対して半兵衛も朗らかな笑顔で断言する。
「惜しいのう。あれほどの妖力を纏う人の子などそうおらんのじゃが」
「言っとくけど官兵衛殿にちょっかい出したら左近さんにバラすからね」
「ガッハッハ。それは困るのう!仕方ない。官兵衛は諦めるか」
伏犠の目元が和らぎ、いつもの人をくった笑顔を見せる。
半兵衛もそれに対してにこやかに笑いながら、そっと掌に滲んだ汗を拭う。
そのまま二人揃って戦っている徐晃の背へと顔を向け、また手持ち無沙汰な時が過ぎる。
「…伏犠さんってさ。…タチ悪いよね」
「いやいや。お主ほどではないわい」
『敵将、討ち取ったり!!』
待ち時間はまだ暫く終わる気配がなかった。
作品名:Now Waiting 作家名:諸星JIN(旧:mo6)