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【イナズマ】ドヤ丸さんとお弁当

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「見ろ!」

にやっと笑ってそいつが差し出してきたのはおかずが満載された弁当箱だった。
俺は無言でそれを見つめた後、ぱか、と自分の弁当箱の蓋を開ける。

「……どうしたんだそれ」
「雪子に作ってもらった」

雪子ってのは俺の母さんの名前だ。
名前で、しかも呼び捨てで呼ぶなと言っているのに
こいつはさっぱり聞きゃしない。
自分の母親でもないのに母さんなんて呼べるか、なんて嘯くので一発はたいたら
最終的に取っ組み合いの喧嘩になった。
その上に母さんにはほぼ俺だけ叱られたのだから理不尽だ。
『一姫二太郎』ってことでもう一人息子が欲しかったらしい母さんは、
どうもこいつに甘い。

「俺の分も作れと言ったら持たせてくれたぞ」
「……へえ、そりゃ良かったな」

見れば俺が昔使ってた弁当箱だ。
言わないでおこう。バレると何かとうるさそうだ。

「ふふん、羨ましいなら羨ましいと言ってもいいんだぞ」
「羨ましいも何も、俺も同じ弁当だし」

むしろそれが不本意だが。
きんぴらごぼうを摘みながら自分の弁当箱の中身を示すと、
こいつは心底悔しそうな顔をした。
馬鹿だ。

「いいなあ、旨そうだなあ」

ぐい、と横から割り込んできた影に目をやれば、半田……にそっくりの、
『半田』がそいつの弁当箱を覗き込んでいた。
その態度に折れかけたプライド的なものが復活したのか、にや、と笑うと、

「どうだ、羨ましいだろう」
「それ、風丸の母さんに作ってもらったのか?」
「そうだ。雪子は俺の言いなりだからな」

何てこと言い出すんだこの馬鹿。
無言で箸を持ったままの右手で脳天に手刀をたたき込むと、
そいつは無言でそのまま沈没した。
弁当箱はちゃんと持っている辺り誉めてやらなくもない。
人が手間をかけて作ったんだから、残さずこぼさず食べるのは礼儀だ。
『半田』は沈んでいるそいつのことは気にもとめずに、
視線は弁当箱に固定したまま、ぐいぐいと半田のジャージを引っ張っている。
性格は大分、もしかしたら半田本人より人懐っこいが 、
こういうところがこいつにそっくりだな、と思う。

「なあなあ真一、俺もああいうの欲しい」
「あ?弁当?お前食うの?」
「食べなくても平気だけど食べたい」
「ふーん……まあ次作るときに母さんに頼んでみるけど」

半田の言葉に顔を輝かせて喜んでいる『半田』を横目に
おかかの混ぜご飯を口に運ぶ。
こいつもこれくらい素直ならまだ可愛げがあろうというのに。
そこまで考えて、人懐っこいこいつを想像した俺は
箸をくわえたままぐう、と唸った。
……飯時に気色悪いものを想像してしまった。
ないな。人懐っこいこいつはない。

「くっ……何するんだ一郎太の癖に……!」
「自分の胸に聞いて反省しろこの馬鹿」

横目で睨むとその向こうの鬼道と目があう。
何か言いたげにしているので首を傾げると、ゆるゆるっと苦笑して、

「……お前、意外に手が早いな」
「大丈夫だ。こいつ以外にこんなことしないから」
「仲がいいな」
「どこが」
「なあ、鬼道鬼道。なんかおかず一個くれよ。真一の弁当なんか地味なんだよな」
「あ、てめっ、そんなこと言うなら返せよ!磯部焼き好きなんだからな俺!」
「良いぞ。ホワイトアスパラの肉巻きでいいか?旨いぞ」
「鬼道もあんま良い肉食わせないでくれよー舌が肥える」