雪闇夜
でも携帯の画面は真っ黒。既に咲との回線は切れていた。
(そっか・・・それが、咲の答えか・・・)
「ずっと電話切らないでおくからさ。咲、このままずっと聞いてて。そしてもし俺が犯罪者だったら、俺のこと忘れて?俺も、咲の前に二度と現れないようにするから」
そう言ったのは自分。
咲は、俺がとんでもないことをしでかした犯罪者だと。
とんでもないヤツラの仲間だと。
そう思ってショックだったんだろう。
だから、電話を切った。
「そりゃ、そうだよな・・」
俺は苦笑した。でも、その途端、視線がぼやけた。
咲を失った―
そう考えることが、ものすごく苦しくて。
咲がもう、俺を信じてくれていないことが、心に大きな闇を作った。
咲ともう会えない。そう思うと、胸がしめつけられて、俺はコートの襟をかき合わせて、膝の間に頭をうずめた。
自分で自分の正体がわからない。
だけど、咲と出会って、動き始めた「滝沢朗」としての俺。そこからでいい、と思ったんだ。咲と出会い、エデンの奴らと出会い、「滝沢朗」は生き始めた。そこからの俺で、咲といっしょの俺で、いたいと思っていたんだ。
あの物部ってヤツが俺の正体を教えてやるっていったけど、どうしようか迷っていた。だって、やっぱり、コワかったから、少しね。
でも、俺一人じゃない、咲が聞いていてくれている。咲と、携帯を通してつながっている。そう思うと、不思議に勇気がわいてきて、物部と対立する勇気もわいてきた。
でも、咲とのキズナは切れてしまった。
雪が降ってきた。
寒い。
俺はますます背をまるめた。
ものすごく寒い。
でも、それは雪のせいばかりじゃないって、わかってる。
頬に雪が落ちてきて、冷たい・・・いや、あたたかい?
(そっか・・俺、泣いているんだ・・・)
頬をぬらしているのが、雪ではなく、涙だと悟る。
(咲っ!!)
心の中で彼女の名を叫ぶ。
咲の存在が、咲が俺を信じてくれていることが、これほど俺を支えていたとは。
咲のいろいろな表情が心にうかぶ。
ちょっとはにかんだ顔。
びっくりして目をまんまるくした顔。
マメ柴がかわいいとにっこりする顔。
何かを問いかけるようにこちらをみあげる顔。
(咲。もう一度、会いたい・・・もう一度、話したいよ)
降り止まぬ雪に身をさらして、俺は貨物列車の上で、真っ暗闇の中を運ばれていった。
涙と雪で、俺の顔はぐちゃぐちゃになっていた。
闇が永遠に続くかのような夜だった。