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理由

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「つらいの、すごくつらいの」
彼女は今まで胸に抱いていた苦しみをすべて吐き出すように、泣きながらそういった。
俺は彼女に背を向けていたけれど。
その方が彼女が話しやすいだろうって思ったから。
でも、全身で聞いてたよ。
彼女がどれだけ悩んだか、傷ついたか、苦しんだか。

彼女に牛丼をかけたヤツ。
彼女に未来を疑わせた会社のおやじ。
そして・・・彼女に、苦しい恋心を抱かせた義兄さん。



ほっ~と、俺は息を吐き出した。
彼女の苦しみや悩みって、多かれ少なかれ、俺たち世代みんなが抱えているモノじゃないのか。
彼女の苦しみを取り除いてやるってことは、俺たちみんなの苦しみを取り除くってことじゃないのか。



いや。
他の誰かよりもまず。
咲、だ。
俺は彼女から苦しみを取り除いてやりたい。


そして俺がそれができる立場にあるとしたら。
記憶のない俺だけど、どうやらヘンテコな携帯のおかげで、俺ができることはたくさんあるらしい。
過去の記憶のない俺のほうが、ひきずる悩みもなく、咲よりもよっぽど身軽らしい。



俺は振り向いて咲を見た。
彼女はどうやら泣き止んで涙を両手でぬぐっている。
そんな彼女を見ていたら、愛おしさが、守ってあげたいという気持ちが、こみ上げてきた。
俺は彼女に近づいて、座っている彼女にむかって身をかがめた。
彼女の泣きはらした目が俺を見る。
顔を近づけ、やさしくキスをした。



咲。
大丈夫だよ。
全部、聞いたよ。
そして受けとめるよ、君のすべて。
俺はすべて、受けとめるよ。
その思いをこめて、俺は咲にキスをした。



唇を離すと、目を見開いて彼女が俺を見ている。
俺は微笑んで、身を起こした。

「ウチにおいでよ。」
「えっ??」
「俺が、全部、背負い込んでやるよ。俺に任せて」



なんか、これって、愛の告白みたいじゃねえ?

我ながら、そう思ったけど。

これは、俺の今の心からの気持ち。咲への。



そう、俺にもできることがある。
そして、たぶん、俺しかできないことがある。


俺が咲に出会った理由。
あの日ホワイトハウスの前で二人を引き合わせた運命の理由。
俺たちが別れがたくて、いま、こうして一緒にこの場にいる理由。



「咲のおかげで、わかった気がするんだ。俺が何をしなくちゃいけないのか。」
口に出してそう言った。そして言葉は確信に変わる。



「あなたは・・・本当は誰なの?」
「う~ん、わかんない。でも、きっと、これからわかるよ」


でも、俺が、咲を守る者であることは、間違いない。
俺が今の咲を苦しみからひっぱり出せる力があることは間違いない。



俺は咲の顔をみつめた。
俺の時間。記憶をなくした滝沢朗の時間が、今から動き出すんだ。
咲。一緒にいこう。
俺と一緒にいこう。

俺は咲に手を伸ばした。
二日前、あの定期船乗り場で、彼女にそうしたように。
咲は、まだ少し恥ずかしそうにしながら俺の手を取る。
「じゃ、行こうか!」

咲と俺の時間が走り出した。



作品名:理由 作家名:なつの