浅葱色と月
開ける事ですら嫌だった思い瞼を開けるとカーテンの隙間から零れる月明かりがやけに明るかった。けれど構ってなんかいられなくて隣で安らかに眠っているはずの温もりに手を伸ばした。服の裾でも構わない、今は何故か彼女が傍にいると感じていたかった。理由は多分、身体が熱くてだるく、呼吸が整わず、酷い痛みが頭を貫いているから。
「リリィ…?」
すぐ上で聴き慣れた声がした。予想外ではあるが妙に安心する。見上げれば多分、怪訝そうな翡翠が見つめて、それからすぐに見開かれるんだろう。私はわかっていて見上げた。
「どしたのリリィ、大丈夫?」
翡翠がぱっと見開かれたのは一瞬で。彼女は上半身を起こして私の額に右手を当てた。彼女の手が冷たく感じるのはあんまりいい傾向じゃない。
「うわ、熱あるじゃん。八度くらいかな…」
彼女の顔を見れただけでも幾分か安心できた。だからスプリングが呻いて浅葱色が揺れたのを見て私は不安になった。寝返りをうつだけでも苦痛のこの身体に鞭打って、彼女の服の裾を握る。力はほとんど入らなかったけれど、彼女は振り返ってくれた。
「リリィ。大丈夫だよ、お水とって来るだけだから」
すぐ戻ってくるよ、と優しい声色で彼女は続けた。水を取ってくるだけなら戻ってくるまでに2分も要らない。けれどそんな短時間ですら一人でいるのが不安だった。
「……ぐみ…一緒にいてよ…」
さっきよりも丸く目を見開いて、それから困ったように彼女は笑って、次に愛おしそうに微笑んでベッドに上がって私を抱き寄せた。割れ物を扱うよりも慎重すぎるくらい慎重に。
「りりぃ」
私の額にそっと唇を押し付けて彼女は微笑んだ。
背中をゆるゆるとさするグミの手が気持ちいい。だから私はさっきよりもずっと安心して、カーテンの隙間から零れる月明かりに照らされて幻想的に光る浅葱色の髪を綺麗だな、なんて貫くように痛む頭の片隅で思いながら愛しい声が繰り返す名前と愛しい温もりに目を閉じた。