Whatever
ニートたちがエレベーターに入りこんでこないようにヤツラを締め出して、ドアを閉じた後、俺はそのまま咲のほうを見ずに、反対側のドアからエレベーターを降りて去ろうとした。だって、見れなかったんだ、咲の顔を。こわくて・・・。咲に拒絶されるのがこわくて。
咲は俺のことを忘れるって結論だしたわけだし、そうしたら俺は咲の前に姿を表さないって、自分から言ってたわけだから。それに、屋上に早く行って、ミサイルを撃破するために動かないと・・・。でも、咲たちが豊洲へ絶対来ちゃうって、ニートたちであふれた豊洲へ来ちゃうって、思ったから。心配で、助けたくて、来てしまった。咲の前に姿を見せてしまった。
「待って!!滝沢くん!!」
咲が俺を呼び止めた。
「本当はみんなを助けにきたんでしょ?また一人で悪者になって、しょいこむつもりなんでしょ?また、滝沢くん、一人で・・・本当は滝沢くんはみんなを助けようとしたのに・・・」
咲が話しかけてくる。
咲? 咲は俺のこと、まだ信じてくれてるの?
でも、俺は、振り向けなかった。
まだ、咲の顔を見れなかった。だって、咲は俺のこと、忘れるって・・・。
「電話・・・もしかして、最後まで聞いててくれたの?」
俺は咲に背を向けたまま聞いてみる。
「うん、ずっと聞いてた・・。でも、途中で電池切れちゃって・・・」
(そうだったのか・・・咲は電話切ったわけじゃなかったのか。電池なくなって切れちゃったってことか・・・)
俺は、咲とのキズナが断ち切られたわけじゃなかったとわかり、こんな事態の最中だけど、すごく気持ちが暖かくなるのがわかった。あの雪の夜、貨物列車の屋根の上で、咲を失ったと思った喪失感。その喪失感でぱっくり開いた傷口が、さあっとふさがっていく。
俺はたまらずくるりと咲へ振り向いた。
うるんだ瞳で、咲は俺を見ていた。
俺と咲の視線がからまりあう。
エレベーターの中には大杉やらみっちょんやら、エデンの奴らが乗っていたけど。
そんなことどこかいっちゃって、俺は咲しか目に入らなかった。咲も俺だけを見つめていた。
(咲はまだ、俺を信じてくれてる・・・)
まっすぐで、でも、いろいろな感情が混じった咲の瞳を見ているだけで、俺の心はいっぱいになった。
咲はそうっと、自分の腕を伸ばしてきた。俺に向って、伸ばしてきた。
(!)
その伸ばした腕は、精一杯の咲の気持ち。
ずっと受身だった彼女が、自分を主張した初めてのアクション。
俺へ向けた彼女の初めてのアクション。
まだ頼りなげな瞳のまま・・・。
それは、彼女の精一杯のコトバ。精一杯のキモチ。
俺へ向けられた彼女の、ありったけの気持ち。
俺はぐっと胸をつかれて、同時にすごく嬉しくて。泣きたいような気持ちになって。
咲の手を取った。ぐっと咲の手を握る。
俺と咲のキズナは再びつながった。
二人は無言で見つめ合う。
(滝沢くん、信じてるよ、今も。これからも、ずっと。何があろうと。何が過去にあったとしても。)
つないだ手を通して、咲の気持ちが伝わってくるような気がした。
その気持ちに俺は応えたい。思いっきり、応えたい。
俺は咲の手を引っ張って、エレベーターから咲を引き出した。そのまま咲の手をひいて、屋上へ向う。
何だってできる気がする、君が信じてくれているなら。
何だって乗り越えられる気がする、君が好きだから。
君が笑顔でいられるためなら、何だって。
(ミサイルなんて、絶対、全部、撃破してみせる!咲の未来を絶対守ってみせる!)
屋上へ向かいながら、俺は、この星を丸ごと変えることだってできそうな気がしていた。