二人のアドベンチャー
離したくなかった。
まだ出会ってから一日しかたっていないのに。
しかも、その出会いもかなり唐突で、ストレンジだったのに。
でも、咲の存在はすんなり俺の心に入ってきたよ。
咲とワシントンを走りまわっているうちに、いままで、ずっと咲と一緒だった気がしてきたんだよ。
だから。
定期船が岸を離れる前に、俺のほうから手を伸ばした。
咲が何かを言いたそうに俺を見つめていた。
でも、それだけじゃなかったんだ。
俺が。
俺が咲と離れたくなかった。
咲を離したくなかったんだ。
だって俺たちのアドベンチャーは始まったばかりだって。そう思ったんだ。
俺が俺自身をみつけていく旅を、咲と一緒に行きたかったんだ。
君は俺が伸ばした手を、何もためらうことなく、取ってくれた。
俺と一緒に岸から離れて。
何者かもわからない俺を、一瞬で信じてくれた。
咲。
どうして?
なぜ、俺みたいな男についてきてくれたの?
そう君に聞きたかったけど。
君と見つめ合っているうちに、そんなこと、聞く必要もないんだと思った。
今、君は俺と一緒にいてくれる。
俺は、今、君の横にいられる。
俺と君だから。
今は。
君と一緒に始まるアドベンチャーに目を向けよう。
咲。
俺が何者であっても、俺のそばにいてくれるかい?
俺がテロリストでも、君は俺を信じてくれるかい?
いつか、そう、君に聞きたいんだ。
作品名:二人のアドベンチャー 作家名:なつの